キャンプ・1日目

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 トラックの速度が落ちた。山道に入っていた。坂を登り、また下り、右へ左へと何度も曲がった。  ゆっくりと荷台を揺らして、エンジンが間欠的にうなる。そして、トラックが駐まった。エンジンが止まると、人の声が聞こえた。大勢の男がトラックを囲んでいる。キャンプに着いたらしい。  ガシャリ、荷台の扉が開いた。木箱が引き出され、どこかへ運ばれて行く。  アケミは両手で体を支えた。運ばれるうち箱が斜めになり、頭をぶつけそうになった。  どん、と下から衝撃が来た。箱が揺れなくなった、地面に置かれたようだ。 「さあ、開けるよ。みんな、笑顔であいさつだよ」  キムが号令をかける。ジョンウが順に箱のフタを開いた。 「ドリス、ジュディ、アン、サラ、ジェーン、リンダ・・・そして、アケミ。開店は午後7時、よろしく」  箱の中から女たちが立ち上がると、兵隊たちは拍手と口笛で迎えた。  キムが紹介した6人は英語風の名前だが、顔は普通に朝鮮女。アケミだけが日本風の名前を貫いていた。  白人の顔は横幅が狭く縦に長いので、妙に口や目が大きく見える。幅広な朝鮮顔のキムと、つい見比べてしまった。  腕時計を見れば、すでに5時を過ぎている。2時間以内に準備を終えて、男たちを相手にしなければいけない。のんびりする間は無い。  振り返れば、そこはテントの前だった。これから商売をする拠点だ。  中をのぞくと、入り口は狭いが奥の深いテントだ。一個小隊の半分が寝起きできる大きさ。  女たちはキムに導かれ、テントに入る。外に並ぶ兵隊に手を振れば、歓声が返ってきた。  空を見上げ、アケミは立ち止まった。  中秋を過ぎて、冬が近い。夕焼けが雲に隠れて、わずかに西の空が明るいだけ。空気が冷えてきた。  低い雲を見て、大丈夫とアケミは頷いた。原爆は快晴の時に最大の威力を出す、熱線が雲に吸収されては威力が半減してしまうから。この雲なら、ここに原爆は落ちて来ない、たぶん。  アケミはテントの中に入った。今夜は安心して商売ができるだろう
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