キャンプ・1日目

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 テントの中は地面がむき出しだ。  カーテンで仕切りをして、それぞれに組み立てベッドを置いて電球も配した。小さなテーブルに衣紋掛け、灰皿に水差しも必須だ。  ジョンウがバケツで水を運んだ。体は細くても、男らしく力がある。  アケミはタバコを口にした。大きく吸い込み、ぷううっ、煙をベッドの毛布に吹きかけた。目に見えないダニやノミが逃げ出すはず、虫は煙に弱い。日本には蚊取線香があるけど、アメリカ人は吸うと頭が痛くなるらしい。葉巻の煙は平気なくせに、変な連中だ。  それぞれの仕切りで、女たちが香を焚いたり香水を撒いたり。テントの中が娼館らしくなってきた。  キムが外から帰って来た。 「予約の札は22番まで配った」 「それくらいなら、あたしは前で呼び込みだね」 「そうだね、いつものように頼むよ」  アケミはベッドの用意を止め、テントの前に出た。キムがギターを借りてきていた。ボロン、弾くと音程に狂いを感じたが、気にするほどでもない。 「ここには200人ほどがいる。半分は戦車や大砲を整備する要員と、野戦病院の関係者。残りは最前線との交替の兵隊だ。戦ってるのは、ここから10キロちょっと先の陣地らしいよ」 「けっこう近くだね、音が聞こえないけど」  キムに言われ、アケミは闇に落ちた稜線を探した。砲声も爆発も無く、風の音が聞こえる静かな宵の口。キャンプの灯りがまぶしく感じた。  前線のキャンプに女を入れるのは、近々大作戦を予定しているからか。あるいは、敵が遠くに下がってしまったからか。民間人としては、商売の間の平穏を祈るだけだ。
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