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宴会場が一際騒がしくなった。一人の従士が飛び込んできたようで、切羽詰まった声と表情でレイラン王を探している。折角の楽し気な雰囲気に水を差す従士の行動に、テーブルからは抗議の声が上がった。
「何事だ。余はここにいるぞ」
従士の落ち着きを取り戻させるべく、水を一杯用意させ、ゆったりとした声色で問いかける。従士は水を一気に飲み干すと、大きく息を吐き出した。
「レイラン王、帝国より使者が参りました。今すぐにお目通り願いたいとのこと」
シェフナがわずかに目を向ける。
帝国の話は前々より聞いていた。元は西にある小国の一つでしかなかったのだが、近年急速に力を付けて来ていた。通常は、傭兵を雇い入れる事により、軍として守護に着かせるのが一般的だ。だが帝国は、先王の時代から傭兵の数を最小限にとどめ、自前の軍隊を整備し、徹底的に鍛え上げた。軍事力においては他国をも凌駕していたのだが、幸いにも、先王は平和主義者でもあった。
数年前に先王が病死し、一人息子が跡を継いだ。新たな王と化した息子は、自らを神の子と称し、他国への侵攻を開始した。自らの欲の為か、それとも先王への反感か。真意を推し量る事などできはしないが、かの国は極めて強力であった。保有する軍もさることながら、それを指揮する王の才能も本物であった。自らを神の子と明言するだけあり、本当に、神が憑いているかのようで、絶対無敗の軍であった。
帝国の紋は獅子、神代の世代にまで遡る勇気の象徴だ。果て無き勇気の象徴を掲げ、瞬く間に周辺国家を取り込んだ。一世代で一大帝国を築き上げた皇帝の手腕に、尊敬と畏怖の念を持って、人々は皇帝を獅子王と呼んでいた。
レイラン王には、師子王がいずれこの国へ訪れることは分かっていた。東西をつなぐ旅の拠点であり、財力も申し分ない。今後帝国が勢力を拡大するうえで、必ず通らねばならない重要な場所であった。
「わかった。すぐに行く。シェフナはここにいろ。宴を楽しむのだ。アダトは余と共に参れ」
レイラン王は杯を従士に預けると、アダトを引き連れバルコニーを後にする。一人残されたシェフナは、シャマシュとゼルガンの姿を探した。
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