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呉宮さんはキス魔です
12月に入り底冷えの寒さが続いている。
吸気の度に冷気が気管支を刺激し喉がカラカラになり、のど飴が手放せない。
午前の渉外活動を終え冷たくなった手を擦り合わせながら営業課フロアへ戻ると、壁に押し付けられた綺麗な女性社員とその女性社員にキスをしようとしている男性社員が1人。
『あ』
3人がこの状況に対して同じ一言を発した。
キス魔の異名を持つ呉宮さんが女性社員にキスを迫っている図。
冬は人肌恋しいのだろう。
最近の女性社員はやたらと呉宮さんにちょっかいを出しキスをねだっている。
「失礼しました。ごゆっくりどうぞ」
頭を下げて部外者の私はそそくさと退散する。
その後のキスの行方をいつも見届けないから実際キスをしているのかは分からない。
けれど、気持ちのモヤモヤは生じたままだ。
レンタル執事で呉宮さんと距離を縮めてしまったばかりに少しだけ独占欲というものが出てきてしまっているらしい。
無関係、と思っていたのに。
「お前、ちょっと来い」
「わっ!」
現在進行形でキスをしているはずの呉宮さんが突然私の腕を引っ張った。
そのまま無言で連れ込まれたのは営業課フロアの1番奥にある会議室D。
5名ほどしか収容出来ないこの会議室は今では物置になっている。
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