その魔女の名は

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 彼女の住処であるこの丸太小屋では薬屋を営んでいる。勿論、人間が簡単に作ることのできるような簡易な薬ではない。店先に並ぶのは魔力を込めた不思議な薬だ。不思議の定義はヒトそれぞれと言うけど、少なくとも彼女の薬で直らなかった症状は無いと断言しても良いくらいだ。  そして、薬の原材料は僕らが暮らす森の中て採集されていないことも分かる。材料収集の為に、不意に留守にすることもある。その後しばらく経つと、外国の特産品を沢山持って帰るのだ。何処かへ行くのか一見して遥か彼方異国の地の材料を取り寄せているだけって思われるかもしれないけど、アデレートは魔女なんだ。魔女だから、毒草と薬草の見分けが付くし、僕らとの会話も出来る。昔はアデレートみたいな魔女がたくさんいたんだけど、近頃はカガクギジュツの発達とやらで、魔女でなくても効能の良い薬を作ることが可能になったらしい。それで「魔女が行なっていたのは魔術でもなんでもない」って人間の偉い人たちが判断した所為で、魔女は減ってしまったみたいなんだ。  人間って愚かだなぁ。  自分たちよりも技術も知識も進歩していた魔女を貶すなんて。彼女たちが先に薙ぎ倒した雑草を避けてまで、遠回りして新しい道を開拓することないのに。どうして共存して、利を求めないのだろう。  そういえば、アデレートは僕の呟きに対してこう言ってたっけ。 「人間は、自分の知らないものを自身の世界から排除したがるのさ」  諦めたように目伏せるアデレートは、ちょっとだけ悲しそうな顔をしていたなぁ。
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