その魔女の名は

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 食事を堪能した彼女は炊事場に汚れた木皿とスプーンを片す。 不要になった紙で一度拭ってから彼女は皿に向けて「レベルテ(元の姿に戻れ)」と命じた。  皿にこびりついた油分の跡がみるみるうちに縮小する。すっかり乾ききった皿は、開かれた食器棚へ吸い寄せられるように浮き上がる。春先に綿毛が風に身を任せるように、抑揚をつけながら虚空を漂う。重ねられた皿の上に着地した物体は魔力が切れ、ただの皿に戻った。  ふと彼女が窓の方を向き、僕らに語りかける。 「……あまり見られるのも気分が良いものではないね。実験の観察対象にされている気分だ」  振り返ると、僕らの背後には森中の様々な動物たちが迫っていた。もちろん、彼等の目当てはアデレートの様子見だ。僕と同じように皆は彼女が大好きだから。様子が気になって仕方ないのだ。 「伝えたいことや尋ねたいことがあるのだろう? 折角の機会だ。教えてやろう。久しぶりに質疑応答でもしようか」  ロッキングチェアを外へ運び出した彼女は優雅に腰を下ろす。一度、目を閉じて風と森のざわめきを堪能する。檸檬の皮のように煌々と輝く黄色の双眸が徐に開いた時。森中の仲間達がアデレートの元へ、続々として集合し始めた。
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