訪問者

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訪問者

 アデレートは不意に遠くを見つめた。黄昏時に空を占める橙色に夜闇の滴を垂らして混ぜたような、深く色濃い宝石のような双眸が街の方向を見つめた。 その直後、木々がざわめく。土が来訪者の存在を知らせる。風が匂いを運ぶ。誰かの声が聞こえる。  ──久方ぶりに、あの子が来たよ  始まったのは伝言ゲーム。  栗毛色の柔らかい髪を揺らしながら、あの子は進む。若草色の瞳には目的地である木小屋が映っている。あの子は精一杯背伸びをして、ドアの中央をノックした。あの子を縦に二人並べたらようやく身長が届きそうなくらい背の高い彼女はドアを開く。 「おや、フランクリンとこの坊ちゃんかい。本日は何をお求めで?世にも奇妙な妖しい薬かい、それともいつも通り平々凡々な人間用の飲み薬かい」  スラリと伸びる腕を身振り手振り動かして、彼女は役者のように語りかける。あの子は黙って俯くだけだ。ここで僕はあの子の──マシュー・フランクリンの様子がおかしいことに漸く気が付いた。  いつものマシューなら目を輝かせてアデレード特製の薬を見せてと懇願するのに、どうしてか今日は下を向いてばかりだ。何でだろう?僕の隣の友達も首を傾けてる。  彼は意を決したように、顔をあげた。 「相談があって来たんです。」
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