潜入捜査……?

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潜入捜査……?

「今更魔法なんて何の役に立つってのさ。代償が常に付き纏う魔法に頼るなんて逆立ちしてチェリーパイを食べるくらい下らないよ」  掌を天井に向けながら、目の前の白衣の男性は首を振る。  お前にアデレートの魔法の凄さがわかってたまるもんか! なんて言わないけれど、やっぱり頭にくる。でも、人間は様々な思想を持つ人々の集団で社会を形成するらしいから、多少の思考の違いは無視するのが大人の対応というものらしい。視野の狭い中、横目でマシューを見ると口を真一文字に結び、言いたいことをグッと堪えているように見える。  彼の向こうの鏡に映っているのはマシュー本人と、金髪青眼の人間の男の子。一見したらマシューと同年代に見えるだろう。さすがアデレートの魔法だ。ほんの一時間前まで、僕が鳥の姿であったとは思えない完成度の高さに感嘆した。  アデレートから「マシューのお目付け役」を任された僕は人間の姿になって(もちろん、アデレートの魔法の力によって、だ)最近町に越してきた医者──ドクターケインの診療所を訪れた。マシューと彼は何度か顔を合わせたことがあるらしく、随分と親しい様子ではあった。どうやらマシューの両親がアデレードの薬の効能を疑い、発疹の原因究明を彼に任せたらしい。  七三分けに整えられた黒髪は彼の誠実さを体現しているようにも見える。そして、外見年齢が明らかに若い。もしかしたら二十代なのではないだろうか。この若さで、厳格なマシューの両親の心をつかんだということは、きっと本来は町の人々に信頼される医者なのであろう。  ……魔女を愚弄する言葉さえなければ、僕も好きになれたかもしれない。 「マシューの背中の赤いブツブツは、ドクターケインなら治せるの?」  マシューの友達と名乗ったおかげか、ドクターケインは客人をもてなす優しい口調で僕に接してくれる。その優しさを魔女にも向けてくれたらいいのに……なんて、馬鹿馬鹿しい考えを頭の隅に追いやって、ドクターケインの言葉聞いた。 「今の人間には魔女に頼らずとも、自らの力で進歩させた科学の力があるんだ。先人が未来の僕たちに伝えてくれた知識を使えば治せない病気なんてないさ。若輩者ではあるけれど、僕が今まで得た知識をめいっぱい使ってマシューの発疹を直してみせる」  目に強い光を宿しながら、ドクターケインは優しい口調で答えてくれた。 「……父様も母様も、町のみんなも先生を信頼しています。だから、僕は安心です。」  マシューも笑顔で応対する。ドクターケインは大きく頷き、それじゃあ治療を始めようかと声をかけて、手元のカルテを開いた。また一つ町民の信頼を得たものだと確信しているドクターケインは今にも鼻歌を歌いだしそうなくらいご機嫌だ。その笑顔を見る限り、あくまでこの場を収めようと落ち着いたフリをしたマシューの本心には気づいていないようだ。  これじゃあ、どちらが大人かわからないね。
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