質疑応答

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質疑応答

──根菜類はもっと煮込んだ方がよろしくてよ 「アルーシェ、余計なお世話だね。久方ぶりにきちんとした食事を摂ったことに対して褒めてほしいくらいだ。小鹿のお前こそ森の恵みを得るべきだな」 ──北の国のビーンズなら僕も食べたいなぁ 「また旅に出たときに、な。何だったら次はマルクスもビーンズのカラ開けに挑戦してみるか。普段食べる胡桃の殻よりも固い実なんかが勢ぞろいしているぞ。北の国の植物は全体的に皮が厚いからな。お前の小さい体と歯をもってしても無理だったら私が手伝ってやる。様々な経験が生きる上での肥しになるのはこの地球に生息するどの生物にも共通するだろう」 ──フランクリン家から催促されないの 「マシューに手渡した薬が切れる頃合いだ。もうすぐ来るんじゃないか。あまり急かすと求愛に失敗するぞ。ついこの間だって羽ばたきながら悲恋を憐れむ歌を森中に響かせたばかりじゃないか。  ……そう怒るな。何事も経験だ。高く遠くへ響く声を受け入れられなかったならば、自らが変わるか、自身を受容する相手を待つことだな。どちらを選択するのかはお前次第だよ。ドミニク。」 ──蔑ろにしてきた人間に手を差し伸べるのは何故 「人間は元来支え合う生き物だ。魔女と呼ばれる私とて、動物界 脊椎動物門 哺乳綱 霊長目 ヒト上科 ヒト科 ヒト属 ヒト に分類される『ヒト』だ。社会形成する動物は多々いるが、特に『ヒト』は遺伝的本能的な文化に基づく行動様式以上に感情によって行動を制限する生物だ。更に動物学上の『ヒト』 は、教育を受けてこそ『人間』という社会的な生物へ生まれ変わる。   人間が生きる以上は誰か他の者の助けを得ないことには生きていけない。誰かに与えられたことを他の誰かに与えることで物事は巡り、最終的に自分に還るのだ。  だから、人間のだれかが私を侮蔑しようがなんだろうが、私は人間に手を貸すよ。そこに恨み辛みも貸し借りも関係ない。魔女の私が人間として生きるとはそういうことだ。  ……話が少し長かったか。ルーナ、さては昨晩キャロルを夜更かしさせたな。爛々と照らす月光を背に、舞う蝶々も趣深いとは思うがね。月の光が美しい夜であってもきちんと羽を休めることを薦めるよ。愛情深く息子を育てるのは良いが、自由には責任が伴うとだけ忠告しておくよ」 ──新しい医者が街にやってきたらしいよ 「さすが、風は情報が早いな。どうやら男の医師らしい。挨拶でもしようと思ったが生憎留守だったからな。仕方なく引き返してきたよ。『彼女』ほど信仰深くしろなんて望まない。必要以上に関わりなんて持たなくても良い。せめて、私が森に住むことだけでも受け入れてくれる人間であることを願うばかりだな。」 ──どうして人間はアデレートを否定ばかり、ふがぁ 「はははっ、自分の娘をそんな不細工な顔にさせるものじゃないよレメイ。イサベルが苦しそうだ。ほらほら、ウサギ特有の長い耳を解放してあげなさい。子供の無知は時に残酷だが、ただ酷いと一方的に罵るのもお門違いだ。知らないならば教えればいい。それが『教育』なのだから。  イサベルいいかい。人間は多種多様だが同じ人間であるということで他の動物と比較することで優位性を誇っている。この地球には様々な人間が集合している。  どの動物だって基本的に集合することで危険を避けたりしているだろう。だから、動物は仲間を作る。だが、人間はそれ以上に集落を完成させる力があるのだ。集落を安全で平和なものにするには危険から身を守らねばならない。その危険を退ける為には『疑い』が必要なのだ。  人間は何を基準にして『疑い』を抱くのか。  それは『同類か否か』だ。同じ集落に住む、同じ食物を得る、同じ生活様式である、同じ身体である……様々な条件をもってして漸く『仲間』だと認められる。  そしてその条件には『魔力を持たない人間であること』も含まれる。  ……何故かって? もともとこの世界には魔力を持つ者が極端に少ないのだ。世界を統治するのは多くのマジョリティばかりでマイノリティの声はかき消されることも多いのさ。……あぁ、マジョリティというのは多数派、マイノリティは少数派という意味さ。……『何を基準にマジョリティとマイノリティは分かれるのか』って?……基準によって変化するから必ずしも『こうだ』と断言出来ないが、基本的には二者択一の選択において過半数……半分を超えた方がマジョリティと考えれば良いさ。  若干話は逸れたが、わかったかいイサベル。なぜ人間が魔女を否定しようとするのか。……そうだ。『自己防衛の為』だ」 ──再び旅に出るときはあるの? 「旅じゃあなくて材料調達が本来の目的なのだが……まぁいいか。旅は暫くお預けになるだろうリーシャ……あまり、はしゃながいでおくれ。羽毛が私の部屋中に散乱するのさ。掃除するのは私なのだぞ? 魔法でどうにかなるという問題ではない。薬の材料は丁寧に扱わねばならないからな。」 ──ドクターマリアはまた来るよね? 「さあな……彼女は家族の元へ帰ったんだ。置手紙があったと散々説明しただろう? ……わかった! わかったから蔦を私の髪に絡めるな! またこの街を一度出る機会があれば、その時にはお前たちのことを伝えておくさ。  ……そういえば『今は家族から離れて遠い場所で出稼ぎしているが、いつかは田舎の広い家を買って、両親と落ち着いて暮らしたい』って言っていたな。せっかくの機会に手土産の一つくらいは持参して行こう」 ──この場所よりも落ちついた街なんてあるの? 「単純な言葉だが『世界は広い』。どこかへ向かえば様々な人種も経験も得られる。住む人間も動物も違えば、文化も風土も変化する。 それにこの街は割と……忙しい方だ」
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