傘の下

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「ほら、こんなトコで止まってねーで」 「シャキシャキ帰ろうぜ?」 「うん」 俺は傘を差し掛けながら、膝で伊邪也(いざや)を押し出す。 「ほら、歩け、歩け」 「うん」 「ほら、もっと急いで」 「…ちょっとっ!直樹!押さないでよ!!」 「危ないじゃん!!」 そう言って振り返った顔は、赤く滲んで、だが少しばかり笑顔に変わっていた。 「腹減ってんだよ」 「早く帰って飯食いてーんだよ!」 「ほら、急げ」 「もうっ!陰になってない!!ちゃんと差してよ?!」 伊邪也(いざや)が、時々振り返って、俺を見上げる。 「ぉい、チームワークだぞ?」 「軍隊行進だ」 「お前、前、見とけよ?ほら、左、右、左…」 「…ね、直樹?明日は家に居てよ?」 「言われなくたって、休みだし」 「…なンなら付き合ってやるよ」 「なに?」 「…散歩でも何でも。お前の好きにすりゃあいいからよ」 「…ぅん、」 「うん、ありがと…」 俺達はまた歩きだす。 昇り始めた朝日が俺の背中を照す。 温かい、安らぎの、目覚めの光。 世界は、陽光(かれ)を受け入れ動き出す。 繰り返される、でも決して同じじゃない毎日。 …そう、(いとな)み、こういうのを”営み”っていうんだ。 生命の営み、俺達にとって当たり前の。 俺は、夢想する。 いつの日か、伊邪也(いざや)は歩き出すだろう。 永遠に見えた暗がりから、自ら傘を差し、眩い陽の光の当たる場所へ。 胸を張って、恐れることなく堂々と。 なんてことなく、当たり前のように。 その克服の瞬間を。 この目で見届けることができる日を。 預言者(イザヤ)、それは、『神は救いなり』 預言者(イザヤ)は、救世主が訪れる未来への希望を告げた。 もしも神なるものがこの世にいるのなら、 ソイツに頼みたいことがある。 神よ、アンタが真実、神であると言うのなら、 この小さなイザヤにも、祝福を与えてやってくれ。 いつか、この呪われた種の、希望の光となるように。     ー おわり ー    ありがとうございました。
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