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だけど、コイツの返事ときたらこうだ。
「・・・やだ」
伊邪也が急に立ち止まった。
「…伊邪也、頼むよ?」
「やだ!」
そう言って俺を振り返り、俺の手を握りしめた。
俺は俯く伊邪也の頭頂部を眺めた。
きっとまた、泣き顔に変わってる。
「…死なせない」
「…もぅ、そういうのいいからさ」
「俺はこっちの方が何かと便利だし」
「飯も普通に食いてえし、たまには布団だって外に干してえし。このままでいいよ?」
「60になっても、80になっても、生きてる内はいつだって迎えに来てやるからさ」
俺は、伊邪也の手を握り返し、力を込めて引き寄せた。
「だから、俺が傘の下に居る内は、どこへも行くな」
「俺から離れるな」
「俺がお前を守ってやっからよ」
絡めた指は、細く、頼りなく、そして冷たかった。
「いいな?」
「・・・うん」
伊邪也は、まだちょっとばかり鼻にかかった声で、返事した。
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