1日のはじまり

2/3
前へ
/11ページ
次へ
ビルの隙間の小さな公園。 遊具のコンクリート製のトンネルの中を覗き込む。 奴はトンネルの真ん中あたりで膝を抱えて蹲っていた。 何度この光景を見たかわからない。 「ぉい、」 声を掛けると、ぱっと顔を上げた。 来てんのわかってんだろ、なんで毎回そのリアクションなんだよ? 「おっそいよっ!!」 奴は屈んだままトンネルを出口まで移動してきた。 俺が傘を差し掛けると、頬を膨らませて俺をちらりと睨み上げる。 「しょーがねえだろ。仕事なンだからよ?」 「仕事って、直樹(なおき)お酒飲んでるだけじゃん!」 「ちげーよ、俺の仕事は接客」 「酒呑むのはそのついで。どっちも仕事なんだよ」 「飯食わなくたって金がなきゃ、今のおめぇが住んでる部屋だって、  家賃だって払えねーンだしよ」 「わかンだろ?そんくらい」 コイツ、伊邪也(いざや)は、憮然としたまま立ち上がり、俺の差し掛けた傘に入った。 見慣れたいつものふくれっ面。 尖らせた唇、不機嫌に前を見据えている。 普通にしてりゃあそこそこ可愛い顔なのに、コイツの表情は大体いつもこんな感じだ。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加