64人が本棚に入れています
本棚に追加
5話
どのくらい経っただろう、寝てしまっていたらしく、スマホの着信音で目が覚めた。時間は18時半をまわっている。そういえば晩御飯もまだ食べていない。
「あっ……!」
思わず声が出た。葵からの返信だ。終わったら行くなんて言っておいて寝てしまうなんて失態だ。『まだかかるから、指定してもらった場所に行くよ』と書いてある。少し考え、あのバーで待つことにし、その旨を返事しておいた。丁度お腹もすいていたので腹ごしらえついでに外食しよう。そうと決め、壮太は身支度を始めた。
夕食を済ませてからバーへ赴いた。平日だからか、まだ早い時間だからか、客は少ない。いつものカウンターに近い二人用のテーブル席に座り、メニューを見る。見ても頼むお酒は大体決まっているのだが、気分で好みが変わることもあるので一応見ることにしている。
「すみません、カルーアミルク一つ」
「少々お待ちを」
注文を受け、店員が動き始める。ビールや焼酎、日本酒は苦手だ。甘いお酒が好き、とか言ったら友人には女か、と突っ込まれたことがある。いつもはここで目当ての男を探すので時間は気にならないのだけれど、今日は待つ身であり、そわそわした。時間が経つのが遅く感じる。スマホでマンガやニュースを読むが頭には入ってこない。気付くと同じお酒の三杯目を注文していた。
時刻が19時半をまわった頃だった。壮太の座っているテーブル席の向かい側のイスがひかれ、誰かが座った。視線を向けると、待っていた葵だった。スーツ姿の葵はスマートで、格好よくて、見るのは二度目なのに思わずときめいてしまった。
「ごめんね、待たせちゃって。仕事長引いてさ」
「いえ、そんな、お疲れ様です」
急に緊張してきて、壮太はぐいっとグラスを口に運んだ。
「オレも何か頼もうかな。すみません、」
職場から直接来てくれたようで、葵はお腹がすいているらしい。サンドウィッチやつまみになるものをお酒と共に注文していた。
「あ、笑わないでね。オレ、甘いお酒の方が好きで、よくバカにされるんだよね」
そう言って、運ばれてきたのは女性に人気のカシスオレンジだった。甘いお酒が好きなのは壮太も同じなので、むしろ好みが合うことが嬉しかった。
「ごめんね、中川くん。名前は聞くつもりなかったんだけど、知っちゃったから」
「いえ……下の名前で、呼び捨てで大丈夫です」
「そう?じゃあ、壮太って呼ぶね」
「はい」
名前を呼ばれるだけで心臓が高鳴ってしまう。面食いな自分が嫌になってしまうくらい葵は格好いい。飲んでいるお酒とのギャップもまたいい。何もかもが様になる。スーツ姿も白衣姿も似合っている。葵の全てが壮太のツボにはまってしまい、葵に夢中になりそうになる。今、ぼーっと葵を眺めてしまうのはきっとアルコールのせいに違いない。と、自分に言い聞かせた。
「酔ってる?何杯目?」
ぼーっとしていたので酔いが回ったと勘違いされたらしく、壮太はぶんぶんと首を横に振る。まさか葵に見惚れていました、なんて言えるはずもない。
最初のコメントを投稿しよう!