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6話
「そういえば、相談って何かな?薬のことかな?」
「あ、」
そうだ、相談したいということで連絡をしたんだった。が、相談することなんて何もないので何も言葉が出てこない。ここは正直に話した方がいいかもしれない。そう思い、壮太はカバンから本を取り出し、葵に差し出した。
「相談じゃなくて、これ、返したくて」
「君が持っててくれたんだ。失くしたと思ってたよ」
ありがとう、と葵は本を受け取った。本を返してしまったので用件は終了してしまった。葵をここに留めておく理由はないし、もう連絡をとる理由もない。そう思うと残念な気持ちになってしまう。もっと葵のことを知りたいし、もっとお話ししていたいと思ってしまう。一夜限りの相手に何を願っているのだろう、と壮太は自分のなじる。
「壮太、オレたち本当に一夜限りでいい?」
「……どういう意味ですか?」
まるで壮太の考えを見透かしているようなことを言ってくるので驚いた。
「いや、壮太がさっきから、そういう視線を送ってくるから」
「……気のせいです」
壮太は誤魔化すようにグラスに口をつける。コーヒー牛乳のような味のするお酒は飲みやすく、飲もうと思えばぐいぐい飲める。何杯目だろう、なんだか少し、体がふわふわしてきた。
「昨日はどうしてここにいたの?何かむしゃくしゃしたことがあった?」
「昨日は、」
昨日は誰でもいいから、めちゃくちゃにされた気分だった。むしゃくしゃしているとか、そういうのではない。
「人肌が、恋しくて」
誰かに依存した気分だった。身を委ねてしまいたい気分だった。
「そんな自分が、許せなくて」
いつまでも元恋人の体温を求め続ている自分を責めて、責めて。自分でもバカだな、と思っている。だけど、どうしても体と心が求めてしまうのだ。依存体質なのだろう、それがどうしようもなく嫌だった。
「そんな理由です」
少し飲みすぎたかもしれない。なんだかぼーっとしてきた。いつも以上に人肌が恋しい。お酒を飲むとこうなることは分かっているのに、なんでだろう、止められない。
「甘えてくれればいいのに」
「……甘やかさないでください」
ちらり、と葵を見る。優しく微笑む葵からは悪意は微塵も感じられなかった。葵の好意を自分の都合で悪用しようとする自分がいるのをこのまま見て見ぬ振りしていいものか。決められないまま、壮太はグラスを口へ運んだ。
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