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「ハルカのクラス、出し物は何やるの?」
「一応希望は劇と縁日で出してて…」
昼休み。今頃、委員長がその権利を懸けて抽選会に臨んでいるところだ。
私たちはまた、気持ち良さそうにそよぐサルビアと真上から笑いかける陽射しに包まれながら、ここでお弁当を食べていた。今朝の御触れのおかげで、鷹矢くんも私も落ち着いて二人の時間を過ごすことができている。なんて穏やかな昼下がり。
「へえ、縁日ってなんだか、大掛かりだね」
鷹矢くんは今日もサンドイッチだった。ご飯よりパンが好きなのかな。彩りまで美味しそうな蒸し鶏とアボカド、トマトのフォカッチャサンドを、溢れさせないよう気を付けながら齧っている。こんなところまで絵になってしまうなんて。
「でも、皆は劇をやりたがってて…」
私は朝以外はもっぱらご飯派だ。今日は自分の分だけでいいから、ちょっと楽をして、ケチャップオムライス。
「そうなんだ。演目、決めてるの?」
「…それが…」
薄く焼いた卵にスプーンを差し込みながら、決まったわけではないけれど、と前置きをしようとしてそれは、音もなく這い寄る人影に遮られた。
「シンデレラっ!」
「!」
「ひゃっ!?」
私たちの背中へ弾む声を被せてきたのは、
「み、美冬ちゃっ…なんで…!」
スケッチブックを抱えた彼女だった。
「ふふー、ちょっとだけっ、お邪魔しますっ」
二人分の驚きを受け止めて、にこにこお辞儀をすると、軽やかなステップで私の横を通り過ぎた。そして膝を折り、パラパラパラとまっさらなページを出すと、ぽかんとする私たちの目の前で颯爽とスケッチを始める。めくっては描き、めくっては描き。
「あ、初めまして蓮未くんっ!私、五組の乾美冬っ。遥のお友達だよっ」
「うん、よろしくね、乾さん」
唐突の今さらな自己紹介を、鷹矢くんは笑顔ですんなり受け入れた。初対面で美冬ちゃんのパワーに押されないのは、この王子様オーラを纏った彼くらいだと思う。
「それでねっ」
手は高速で動かしたまま、美冬ちゃんは一瞬だけ私たちと順に目を合わせ、
「ずばり、二人にモデルを頼みたいんだっ!」
もう、何枚目だろうか。先の丸くなった鉛筆を持ち替えては、さらにもうひとつページをめくる。
「もう、描いてるよね…?」
そしてその最後の一枚を描き終えたところで、その指先が一閃、美冬ちゃんはターンッと筆を置いた。
「いいっ…!うん、これにするっ!」
目をキラッキラに輝かせて、スケッチブックを天高く掲げ見ると今度は、たまらないと全身で叫びながらそれを胸に抱き締める。
「美冬ちゃん?」
うっとりモードの美冬ちゃんはなかなか帰ってこないのだ。だから私は必死で呼び掛ける。
「美冬ちゃ…」
どこにそのスイッチがあるのか未だに見当もつかないけれど、とにかく戻ってくるのもいつも突然だった。
「じゃあ、オッケーってことでいいかなっ?」
「え?」
「うちは月、水、金が活動日だから、そのどこかで採寸に来て欲しいんだけどっ」
「採寸…?」
ついに鷹矢くんも戸惑いを見せ始めた。話が見えない。
「美冬ちゃん。…なんの話?」
首を傾げた私たちに、美冬ちゃんの笑顔が燦々と降り注ぐ。今しがた完成した最高傑作のデザイン画をその頬にぴったりくっつけて、
「だからねっ、」
美冬ちゃんは前のめりウィンク、私たちにその輝きを振り撒くように言った。
「文化祭で、うちの部のファッションショーに、出て欲しいのっ」
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