24人が本棚に入れています
本棚に追加
凍てつくような濃い闇の中。
少年はじっと待っていた。
不意に重苦しい空気が動く。
やっと来たか―――――
少年の唇に艶やかな微笑みが浮かぶ。
長めの前髪を煩そうに払うと、一歩歩を進めた。
闇の中にぼんやりと浮かび上がる人影。
「お待ちしてましたよ」
声変わり前の、澄んだソプラノボイスにシルエットがびくりと揺れた。
「ごめんなさい。驚かせちゃって」
少年は目の前に現れた女に、頭を下げた。
女は訳が分からないといった顔で、忙しなく辺りを見回し小さく呟く。
「ここは一体…私は待ち合わせ場所に向かう途中で…」
キリキリと痛むこめかみを押さえながら、記憶を辿った。
女は恋人との待ち合わせ場所へと急いでいた。
恋人は女の会社の上司。
妻も子もいる_____________
所謂不倫の関係だ。
まさか、自分がそんなふしだらな恋愛に身を投じる事になるとは…
今振り返ってみても不思議でならない。
やはり、運命なのだろうか?
女には40代目前まで『恋人』どころか『男友達』すらいなかった。
その理由については、自分なりの答えを持っていた。
顔の造りはそれほど悪くはない方だと思う。
笑うと両頬にできるエクボは、とても愛らしいチャームポイントだ。
ただ、幼いころから”関取”などという不本意なあだ名で呼ばれ続けた
この体型がいけないのだと…
若い頃は、話題になったダイエットを片っ端から試した事もあった。
が、どれも思った程の効果はなく、歳と共に情熱も失われていった。
同じ事が繰り返される、単調な灰色の毎日。
___________そんな時、女の日常に鮮やかな彩りを与えてくれたのが彼だった。
最初のコメントを投稿しよう!