24人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
その日から女の唯一の趣味であり、息抜きでもある週末のスィーツショップ巡りは、これまで以上の楽しさを与えてくれた。
自分のスィーツの他に、必ず彼用の土産も買い求めるようなったのだ。
彼の喜ぶ顔を思い浮かべるだけで、自然と口元がほころぶ。
それから2週間の後、女は彼から食事に誘われた。
いつも美味しいスィーツをもらっているお礼だと。
一度は恐縮し、丁重に断りを入れたが、結局彼の強引さに負け承諾の意を示した。
顔には出さなかったが、内心は飛び上がるほど嬉しかった。
女はその日に備え、久しぶりに新しいワンピースを購入した。
彼が案内してくれたのは、こじんまりとした居酒屋だった。
洒落たレストランなどを想像していた故に、お世辞にもキレイとは言い難い外観を見て失望した事を思い出す。
店に入ると威勢の良い大将の声がふたりを迎えてくれた。
一番奥まった席に向かい合わせで座ると、早速彼は手書きのメニューを広げ
「遠慮しないで、好きなもん頼んでね」
少し声を潜め
「ここ、店は汚いけど味は絶品だからさ」
悪戯っぽく笑う。
「えっと、僕のおススメはね――――」
テーブルの上に並んだ、彼お勧めの品々。
焼き鳥の盛り合わせ、皮付きのポテトフライ、鰹の三和土、揚げ出し豆腐。
そして女が頼んだ、鶏の唐揚げに、チーズ春巻き。
早速、小皿に取り分けた揚げ出し豆腐に箸をつけた。
カリカリに揚げられた豆腐を噛むと、中からじわっとだし汁がしみ出し口内いっぱいに広がる。
「美味しい!」
思わず声を上げると、彼はまるで自分の手料理を褒められたように、嬉しそうな顔をした。
「でしょ?僕も初めて食べた時はあまりの旨さに、涙目になるくらい感動したよ。
じゃあ、これも食べてみて――――」
『味は絶品』その言葉に嘘はなかった。
何を食べても美味しい。女は夢中になって片っ端から料理を平らげていく。
女をじっと見つめる彼の目はとても優しく細められていた。
「あの…」
箸をおき、僅かに頬を染める女に向かって彼は言った。
「すごく…可愛いよ」
―――――その夜、上司は『恋人』へと変わった。
最初のコメントを投稿しよう!