最期の贈り物

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凍てつくような濃い闇の中。 少年はじっと待っていた。 不意に重苦しい空気が動く。 やっと来たか――――― 少年の唇に艶やかな微笑みが浮かぶ。 長めの前髪を(うるさ)そうに払うと、一歩歩を進めた。 闇の中にぼんやりと浮かび上がる人影。 「お待ちしてましたよ」 声変わり前の、澄んだソプラノボイスにシルエットがびくりと揺れた。 「ごめんなさい。驚かせちゃって」 少年は目の前に現れた女に、頭を下げた。 女は訳が分からないといった顔で、忙しなく辺りを見回し小さく呟く。 「ここは一体…私は待ち合わせ場所に向かう途中で…」 キリキリと痛むこめかみを押さえながら、記憶を辿った。 女は恋人との待ち合わせ場所へと急いでいた。 恋人は女の会社の上司。 妻も子もいる_____________ 所謂不倫の関係だ。 まさか、自分がそんなふしだらな恋愛に身を投じる事になるとは… 今振り返ってみても不思議でならない。 やはり、運命なのだろうか? 女には40代目前まで『恋人』どころか『男友達』すらいなかった。 その理由については、自分なりの答えを持っていた。 顔の造りはそれほど悪くはない方だと思う。 笑うと両頬にできるエクボは、とても愛らしいチャームポイントだ。 ただ、幼いころから”関取”などという不本意なあだ名で呼ばれ続けた この体型がいけないのだと… 若い頃は、話題になったダイエットを片っ端から試した事もあった。 が、どれも思った程の効果はなく、歳と共に情熱も失われていった。 同じ事が繰り返される、単調な灰色の毎日。 ___________そんな時、女の日常に鮮やかな(いろど)りを与えてくれたのが彼だった。
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