満月の夜は 傘をさしましょう

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 今日も学校ではほとんど下をむいていたのに、ちょっとした拍子にうかせた視線を、バルバラにつかまえられてしまった。  キュッと口のはしをつり上げると、わたしにむかって一歩踏み出そうとした。その動きよりも早く席を立って、教室から出る。早足で廊下をずんずん進む。  あんなににぎやかな人に目をつけられると面倒だ。よかった、扉のすぐ近くの席で。  だけど、どうして、わたしなんかを気にかけるのだろう。  華やかなバルバラ。地味なわたし。  いつも人に囲まれているバルバラ。まわりには空気しかいないわたし。  立派な家柄のバルバラ。町からはなれた森の中に住むわたし。  なんにも共通点なんかないのに。  なにか気にさわることでもしたのかしら。ううん、いいの。そんなことはわからなくても。関わり合いにならなければ、済むことなんだから。  授業の始まる鐘が鳴るまで、お手洗いにひそんでいた。
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