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男の子
私がいるデスクの周りに、時たま現れる男性の職員がいる。
髪を若干明るめに染め抜いて、元気がよく声の通るやんちゃ系ボーイだ。
しかし〝男性〟という言い方は彼に相応しくない。
背が高くスポーツのできるイケイケ青年でも想像しただろうか?
いいや。私の周りをうろつく彼はまさに〝男の子〟という形態がもっとも合致する部類だろう。
身長は私とほぼ同じくらい。
服の上からは細身の体にほどよくついた筋肉が見受けられ、袖をまくった腕は見ごたえのある代物だ。
私は彼を見て瞬時に判断せねばならなかった。
そう、〝受け〟なのか〝攻め〟なのかを。
(ああ、この子はいっつも元気がええし、可愛い顔しとるやないの~。やっぱり受けか?おまんは受けなんとちゃいますか~?)
本当にたまにしか現れない彼を、どちらに分類するか定めるには観察時間があまりに短い。
私は上か下かを妄想しつつ、その位置を決めかねていた。
ある日私はデスクから離れて、物品整理に使うケースを重ねて片付けていた。
ケースはまとめて片付けておく場所があり、全ての職員がそこにケースを片付ける。
すると例の〝男の子〟が大量のケースを台車にのせて、無防備にもこちらに向かってくるではないか。
私はあえて気づかぬふりをして、自分のケースを片付け続けた。
すると男の子はまず台車を適当な場所に寄せて、先に清算処理を行う場所へと向かった。
その清算処理を行う場所は、ケースを片付ける場所のすぐ真後ろにあって、そちらを先に片付けようという算段らしい。
(ほう、そっちを先に片付けるんやね。ほいなら姉さんがおまんのこの大量のケース片付けてやんよ。まかせな)
実際の年齢はしらないが、勝手に年下だと設定する。
私は台車につまれたケースを文字通り片付けた。
最後のひとつを片付けたそのタイミングで、男の子は私の隣に突然現れる。
「ありがとうございます!」
(おまぁぁぁぁぁ!敬語?!おまっ敬語なの?!私はあんたのいわゆる部下なんやけど~~?!)
「いえいえ」
(自分語彙力無さすぎやろっ!いえいえ、って。それしか言えへんのかい!このドアホ!!!!)
彼は爽やかな笑みを浮かべて私にお礼をいうと、持ち場へ帰っていった。
(ええよ、ええよ。お姉さんがなんでも片付けたる。いつでもケースもってこい!)
私はそれ以降まだ彼の姿を見ていない。
しかしもういいのだ。
彼の笑顔を見て私は決めたのだ。
彼を〝総受け〟という最高の受けに任じることを。
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