パートナー

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パートナー

 イケ()についてである。  彼は出勤にロードレーサーを使っている。  そうあの〝ロードレーサー〟だ。  あれを乗りこなし、毎日の出勤にマストアイテムとして使いこなしている彼は、やはりそんじょそこらのやつとは違いを見せていた。  ママチャリなどではない。ロードレーサーだ。  それに乗って出勤するときや、退勤するのを私は何度か目撃している。  そして偶然にも私は、目撃するだけではなく〝すれ違う〟ことに成功しているのだ。  そうそれは、挨拶を交わすことを意味している。  何度でも言おう。彼はイケているメンズ。イケメンなのだ。  見た目だけではない。中身もそれはもうイケている。  すれ違えば必ず挨拶をしてくれるそれもういい子だ。  先日も私が外出から戻ると、彼はちょうど退勤する時刻だったようで、ロードレーサーに乗って出てきた。 「お疲れ様です!」 「どうも、お疲れ様です」 (あかんよ、この距離でそれはあかん。あんたの笑顔、人を射ぬくで!!!)  私はまたしても普通の挨拶しかできていない。  だが仕方がない。私はイケメンに対応できるステータスもなければアビリティもないのだ。  だが今回私はひらめいた。  彼の(つがい)を。彼のパートナーを。  あんなイケてる彼は攻めに違いないと、私は常日頃から考えていた。  しかし、そのような軽率な考えを持っていた私は愚か者だ。  彼に相応しい番。それは、本部長だ。  私の働くこのオフィスは支店だ。本部は別にある。  つまりこのオフィスで一番偉い役職についている本部長、その方こそが彼に相応しい番だった。  本部長は背が高く、がたいもいい。黒淵メガネで、いつもワイシャツにネクタイ姿という凛々しいお姿をしている。  私が挨拶をするといつもぴしっと返してくれる〝できる男〟だった。  あの本部長は〝攻め〟以外の何者でもない。  年上で仕事ができて、地位も高く攻めとしての力量は申し分ない。  イケ男くんは攻めだとばかり思っていたが、本部長とのBL(ボーイズラブ)を考えると、自然にそれを受け入れられる自分がいるではないか。  恐らくイケ男くんは攻めでも十分魅力がある。  しかしもっとも彼が引き立てられるのは〝受け〟に違いない。  本部長とのカップリングは、これ以上ないほどの適任だった。  しばらく私はこの「本部長×イケ男くん」で生きていけるだろう。  本部長がどのようにして攻めていくのか、妄想は膨らむばかりだ。
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