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不用心だって怒られるな、と思いながら美代子は彼の家に上がった。狭くも広くもない一軒家はあまりにも殺風景で、二人の存在を際立たせる。
靴の中までびしょびしょなんですけど、と一応気を遣う。そのまま上がっていいと彼が言うので、美代子はその通りにした。通った痕が床について少し申し訳ない。
こっち。僕のアトリエ
美代子は決して警戒していないわけではなかった。何かあったらいつでも通報しようと携帯を握りしめていたし、彼を後ろに回らせないようにも気を配っていた。そうまでしてどうして家に上がり込んだのかというと、彼の目だけだ。もしこれが事件になったとしたら、親に放置され気味だったとか友達があまりいなかったとか勝手なことを報道されるのだろうが、そこに真実はない。
ずぶ濡れだけど、大丈夫。傘、忘れたの
声をかけられ顔を上げたとき、長い睫毛の下から覗く彼の目が、彼にとって美代子が特別だと告げていた。だからここに来た。
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