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例えばこんな誕生日
何かがおかしい。
俺は漠然とした違和感を抱えつつ、待ち合わせ場所に立っていた。
現在午後二時二十分分。
朱音との待ち合わせは二時半だ。
事の起こりはそう、昨日の夜だ。
突然、今日のデートの待ち合わせ時間を変更したいと言い出した。
本当なら午前中から会うはずが、午後二時半に変更になった。
この日は俺の誕生日。
幼馴染だからその事は知っているはずだ。
そして、お付き合いを始めてから、という括りで行くと初めて一緒に過ごす俺の誕生日でもある。
それなのにゆっくりできないとは……。
朱音の誕生日にはちゃんと一緒にゆっくりしたのに……。
プレゼントもなんか買ってあげたし。
そして今朝だ。
朝飯を食っていたら、親父から「頑張れよ」って急に言われた。
理由を聞こうとした途端、親父は贖えぬお袋の手招きによって部屋の外に連れ去られ、そのまま二度と食卓には戻ってこなかった。
その後、一人戻ってきたお袋に朝飯を食ったら風呂に入れと言われた。
更に食卓に遅れて現れた姉貴には思いくそ背中をひっぱたかれた。
おかげで食ってたトーストに咽た。
暴力じゃなくてプレゼント寄越せ、と抗議したら頬をおもくそ抓られた挙句に、それは私の役目じゃないとかなんとか。
まだある。
ここに来る前。
つまり、家を出るときにお袋と姉貴に見送られた。
お袋にはポンって肩まで叩かれたし、何か五千円くれた。
「なにこれ?」
「母の愛」
「……誕生日プレゼント?」
「違うわ。愛よ」
意味が解らん。
「良いから受け取っときなさいよぉ」
マジな威力の肩パンは止めて下されろ。
五千円は頂き、姉貴には渾身の中指をおっ立てて見せた。
そしてへし折られる前に脱出。
家を出るとき、こんなに気持ちの悪い家だっけと思いながら振り返ると、二階の窓から親父が見てた。
目が合うと、満面の笑みでサムズアップ。
もう何なら怖いんだけど。
そして今、俺はあと五分と迫った待ち合わせ時間を前に、違和感を振り払えないでいた。
ひょっとして、昨日寝ている間にパラレルワールドの自分と入れ替わってしまったんだろうか。
幼馴染でご近所さんなのに、わざわざ待ち合わせ場所とか設定する必要あるんだろうか。
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