3章

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 どうやら、隼斗の祖母はこんな重大なことを自分の胸だけにしまっておくことに耐えかねてしまったらしい。『隼斗には黙っているって約束したから、知らないフリをしてちょうだいね』と念押しをしておけばいいと思ったのかもしれない。その口止めがあったから、お父さんは隼斗のやらかした登校拒否を直接咎めなかったのだろう。しかし、翌朝のそのセリフを聞いている限り、お父さんが腹を立てていることは明らかだった。  隼斗は父の機嫌を損ねたことをひどく気に病んでいた。 「今、お父さんにへそを曲げられると僕は困るんです。お父さんもおばあちゃんと同じで、僕が勉強をして栄耀へ行くのを喜んでいなくて。『男ばっかり、勉強ばっかりの学校へ行ったら偏った人間になってしまうぞ』って今でも反対されてるくらいです。それでもお母さんの……お母さんの遺言があるから仕方なく入学手続きもしてくれたけど、でもこれを理由に入学を取り消されたら困るし」  そんな理由で隼斗は6年1組に戻ることを決めたのか?  小林は腹わたが煮えくり返る想いだったが、本人は週末の間に気持ちの整理もできてしまったのか、やたらと落ち着いていた。 「お父さんに知られるくらいなら、僕も最初から我慢しました。それでも学年主任の先生があと2週間くらいなら黙っておいてもいいぞって言ってくれたから、ついそこに甘えてしまって」  隼斗は考えの足らなさを反省しているようだったが、そんな必要はないと小林は思う。だって、教室は隼斗にとって行きたくない場所なのだから。そこへ行かなくてもいいなんて言われたら、誰でも飛びついてしまうだろう。僅か2週間ならなんとか隠しきれるかも、と期待するのは当然の話だ。  「お母さんは僕のために、受験までのタイムスケジュールを書き残して応援してくれました。お金だって、お母さんの貯金を全部使えばいいからねってちゃんと用意してくれました。だから僕は無事に栄耀に合格することができたんです。それなのに、こんなところでつまづくわけにはいかないんです」 「しかしだな……」
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