4章

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4章

 週末の卒業式には小林も参列した。非常勤の教諭は自由参加で良いことになっていたのだが、小林は出たいと希望し席を作ってもらったのだ。  隼斗は練習不足など感じさせない落ち着きぶりで壇上へ進み、卒業証書を受け取っていた。その他の子どもたちも大きな声で返事をして見守る保護者らを感動させていたから、小林も一緒になって盛大な拍手を送った。  堅苦しい式典が終わると校庭にてクラスごとの記念撮影を行い、その後はお世話になった先生方との撮影や最後の会話をめいめいが自由に楽しむ流れになる。  一人前に正装に身を包んだ子どもたちが互いにじゃれ合い、笑い声を溢れさせる中、隼斗は予想通り校庭の端っこにひっそりと佇んでいた。小林は彼の元へ歩み寄り、一緒にいた父と祖母らしい二人に挨拶する。 「ご卒業おめでとうございます。私は司書教諭をしている小林と申します」 「あぁ、図書室の」 「その節は大変お世話になりまして」  微笑んだ父親と祖母は相次いで頭を下げてくれた。児童個人との関わり合いなんて薄いに決まっている司書教諭がわざわざ話しかけてくるという、この事態を父親がすんなり受け入れているということは、やはり祖母は全てを話してしまったのだろうと思われた。  小林は二人に挟まれて控えめに立っていたブレザー姿の隼斗にちらりと視線を投げかける。そして、大人たちに向かって笑顔で語りかけた。 「隼斗くんも最後の一週間はクラスの子たちと仲良く過ごせたようですね」 「そうらしいですね、先ほど大久保先生から話を聞かせてもらって、私たちも胸を撫でおろしたところです」 「大久保も喜んでいましたよ。隼斗くんがみなと仲良く遊んでいる。教室へも通えるようになった。だから良かった、と」  小林の言葉に二人は笑顔で応じている。つまり、大久保先生と同じ意見だということだ。とにかく周りと仲良くして、卒業さえできればそれでいいと思っている。  小林は微笑みを懸命に顔に張り付かせたまま、二人に話しかけた。 「ところで、お二人は知恵の実の話というのをご存じですか?」 「聖書に出てくる?」 「あぁそうです。私は隼斗くんを見ていると、まさに禁断の知恵の実をかじったアダムに見えてくるんですよ」
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