4章

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「私はやはり人間関係が心配です。どれだけ勉強ができて性格が良いとしても、人と付き合っていけない奴はつぶれてしまう。なのにうちの息子には、友達を作るという基本ができないのだから」 「あぁ、ご心配なく。友達ならちゃんとできましたよ」 「え?」 「私です」  小林はちょっぴり胸を張って名乗り出た。 「私は隼斗くんという友を得ることができて本当に幸せ者です。隼斗くんがいなければ、私は友人と語り合う愉しさも、小学校の司書教諭である喜びも知ることができなかったでしょう。本当に感謝しています」  それから小林は改めて背筋を伸ばして二人の保護者の前に立った。 「本当は土下座してでもお願いしようと思っていました。これからの隼斗くんのことを、私はこうやってお二人にお願いすることしかできないもので」  どうか、よろしくお願いいたします、と深々と頭を下げる小林に合わせて、隼斗も一緒になって大きな声で「よろしくお願いします!」と父と祖母に向かって頭を下げた。  顔を伏せていたおかげで小林が知ることはできなかったが、後で聞いたところによると二人は戸惑った様子で、顔を見合わせていたらしかった。  その後、隼斗は忘れ物をしたという口実で家族と一旦離れ、小林と一緒に図書室まで来てくれた。 「お父さんたちに話をしてくださって、ありがとうございました」  図書室に入り二人きりになると、隼斗はまず最初に礼を述べる。小林はその礼儀正しさに改めて感じ入り、目を細めた。 「いやいや、やはりここは、私がお母さんの分まで話をするしかないと思ってね」  隼斗のためにできることを考えた結果だった。  非常勤の司書教諭ごときが保護者に意見するだなんて、出しゃばり過ぎな気もしたが、言いたいことがあっても、もう何も言えない隼斗のお母さんの気持ちを考えれば、小さなことを気にしている場合ではないと思い立ったのだ。 「私はとにかく隼斗のお母さんに感謝しているんだ。君の聞き上手は、きっとおしゃべりなお母さんに培われたものなんだろうから」 「ふふっ。ありがとうございます。お母さんはきっと喜んでくれています」  母のことを褒められるときの隼斗は、とても柔らかい笑みを浮かべる。これまで父や祖母とは教育方針の違いから対立することもあったはずのお母さんを、幼い隼斗にはかばいきれなくて、やきもきしていたのだろう。だから母のやり方を認めてもらえるのは、隼斗にとって何より嬉しいことなのだ。  思えば、隼斗はお母さんのことを過去形で話さない。少年の中で、母は今も一緒に歩んでくれているのだ。その感覚はこれからも変わらないことだろう。 「これで少しは風当たりが和らぐといいんだがなぁ」
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