1章

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 司書教諭の仕事というのは忙しい。周囲からは、子供らが休み時間に訪ねてきた時に貸し出しカードを書いてあげるだけのとても暇な仕事だと思われがちだが、とんでもない。  最近の小学校では図書の授業というのがあり、低学年は毎週、高学年は隔週で学年にあわせた本を読んでやらねばならないのだ。そのための本を探してくる手間があるし、手書きの貸し出しカードの管理は煩雑で、延滞されていないかも毎日チェックが必要。その他、予算に応じた新規図書の購入を決めたり、授業で使いたいと担任の先生から頼まれた資料を用意してあげたりと、見えない部分での雑務が多すぎる。  それでも県立図書館で長年働いてきた小林にとっては慣れ親しんだ業務でもあるから、体の動く限り司書として働き続けていきたいと思っている。  しかし昨今の司書を取り巻く状況はきびしい。自治体の収入不足で図書館関連の予算はどんどん削られ、正規職員での雇用も減っている。  加えて書籍の電子化が進んでおり、以前の勤め先である県立図書館でもその蔵書の多くを電子書籍に切り替える方向になってしまい、職員の大半を退職させる必要が出てきた。 「小林さん向けの司書の仕事があるんですが、どうですかね?」  2年前、早く部下たちのクビを切らねば、自分の地位も危ういと危惧していた上司が小林にしつこく勧めてきたのが、この小学校での勤務だったのだ。  小林さん向け、というのは小学校は電子化が遅れており、貸し出しカードすら手書きである点を指していた。小林はどうも機械の扱いが苦手で、いまだにパソコンも人差し指一本で打っている状態だったのだ。幸いなことに若かりし日に何故か社会科の教員免許を取っていたものだから、司書教諭になるための資格だけは十分あった。 「小学校ですか……」  小林は渋ったが、司書として働き続けたいなら他に選択肢なんてなかった。こんな50を過ぎた定年間近のおっさんを雇ってくれる図書館なんて、他にどこにもなかったのだ。  しかし、腹を括ってきたつもりでも、やはりがさつでやかましい小学生相手の仕事はどうしても馴染むことができない。 「図書室では黙って本を読みなさい!!」  今日も四時間目に図書の授業でやってきた3年生の子どもたち相手に、つい怒鳴り声を上げてしまった。  1年生なんかはまだいい。小さいというだけで許せるし、それにまだまだ性格も素直で大人の言うことを聞いてくれるから可愛い。ところが3年生にもなるとなんとまぁ、こまっしゃくれたクソガキどもに成長することか! 「えー! 小林センセーの声が一番大きいけどぉ?!」  怒られているというのに、めげるどころか男子を中心にこんな憎まれ口を投げ返してくる始末だ。
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