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1章
翌週の月曜日、大久保先生に付き添われてやってきたのは、色白で見るからに線の細い男の子だった。
「曽根隼斗くんです」
「よろしくお願いします」
黒いランドセルを背負った眼鏡の少年は、担任に促されて小さな声で挨拶をした。
「あぁ、君が曽根くんだったのか」
先週、名前を聞いた時はぴんと来なかったが、彼の顔を小林は以前から知っていた。話をしたことは無いが、これまでも図書館にはちょくちょく顔を出していた子どもだったのだ。
大久保先生も朝は忙しい。何かあればすぐにおっしゃってください、よろしくお願いします、と頭を下げると、すぐに図書館から出て行ってしまった。
残された二人は無言で顔を見合わせる。
通常の教室1.5個分で格別に広いわけでもない図書室だが、二人きりで過ごすにはあまりに解放感がありすぎた。
「あぁ……そこら辺の机を適当に使ってくれていいよ」
ランドセルを背負ったまま突っ立っている少年に向かって、小林は閲覧用の椅子を指さした。
「私はこっちで作業しているから、何かあればいつでも声をかけてくれていい。それから、今日は二時間目と四時間目に図書の授業があるから、その間だけ準備室の方へ移ってくれるかな」
「分かりました」
声は小さいがいい返事だった。声質には子どもらしいかん高さがあるものの、そこに嫌悪感は感じられない。目上に対して、きちんと丁寧語を使って話をしてくれているせいだろう。何しろ、最近の子どもときたら敬語を知らないものだから、話をするだけで小林はいらいらしてしまう。彼がやっていることはともかくとして、存外まともな子で良かった、と小林はひとまず胸をなで下ろした。
隼斗は長机の端っこに座ると、ランドセルの中から勉強道具を出して並べ始めた。プリントの束やらレポート用紙やら、ずいぶんたくさん用意してきたようだ。
「なんだ。せっかく図書室にいるのに、本は読まないのか?」
「あまり好きではないので」
「うん? でもこれまでも昼休みにはよく来ていたよな?」
小林が不思議がると、少年は曖昧な微笑みを浮かべて、答えをはぐらかした。
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