一本の傘と七人の紙人間と通り雨

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箱を持って家を出た。二十八号を迎えにいく予定だ。 急な雨で、身動きが取れず困っているだろう。 商店街のアーケードまで、無事にたどり着けていればいいけれど、五分五分といったところだ。 降り始めたのが交差点のあたりだったとしたら、下手すると明日は一日乾燥棚にぶち込んでおかなきゃならなくなる。 最悪自分一人でもなんとかなるが、二十八号の手伝いなしに豆を挽くのは面倒だ。それに大口の注文も入っている。 「じいちゃん、コカトリス借りるで」 「どこいくんだ?」 「駅の方」 「気ぃつけていけよ」 ◆  通り雨はいつになく上機嫌だった。  足取りは軽く、雨音も涼やかだ。  夏の中を進んでいるときの心地よさが絶え間無く、全身を巡っていく。  気圧の高低差は坂道のように通り雨の進む道を描き出すが、その傾斜も今日はちょうど良かった。不必要に急かされることもなく、また進みを鈍らされるほどでもない。  いくつかの洗濯物を弾き飛ばした。  風と一緒にはしゃぐ些細な悪戯は、通り雨の心に背徳的な優越感をもたらした。  何人かの蛙がこちらに手を振っているのが見える。  こちらも手を振り返す。  渋滞する車の海を、まるごと押し流してやりたい衝動にかられるが、台風でもない通り雨には、そこまでの力はない。
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