一本の傘と七人の紙人間と通り雨

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 庇はテラス席を擁護するために、軒先から歩道の上へと伸びている。  その下をうまく歩ければ、かろうじて雨をやり過ごすことはできる。  でも絶対的なものではない。  袖や鞄やつま先が、少しずつ湿らされていくことは避けられず、紙人間である十四号にとってそれは、やがて致命的となりうる干渉だった。  出立が少しばかり先延ばしになるが、致し方ないように思えた。  風の速度、雲の大きさ、気圧の変化、気象庁の発表する情報を大まかにインプットして、雨の進む先とその速度を概算する。 テラス席には一羽の若い赤燕が座っていたが、勘定を済ますと、意を決したように雨の中へと飛び立っていった。 カフェの主人である達磨が、心配そうに十四号に声をかけた。 「アンタはどうするね?」 「もうちょっと、雨宿りしていってもいいかな」 「構わんさ」 達磨は赤燕の残したカップを下げ、テーブルを綺麗に拭き上げると、カウンタの中へと戻っていった。 ◆ 駅を出たら雨が降ってやがる、地下だから気づかなかったんだ。 わかっていたら傘を買ってきたんだが。こんな降り方では、コンビニまで進むのも難儀だ。 二十一号は悪態をついた。悪態は一瞬だけ宙に浮かび、幾千もの雨粒に貫かれてしぼみ、地面に落ちて流れていった。 無理矢理に雨の中を進むのは嫌ではない。でも、一昨日そうやって濡らしてしまった右足には、未だにガムテープが巻きついたままだった。乾ききってはいるのだが、若干強度が下がって安定しないのだ。 二十一号は、近くにいた蝸牛にぶっきらぼうに尋ねた。 「おい、この雨、どんくらいでやむかなあ?」 「さあね。おいらにゃ、ずっとふっててくれてもかまわん」 「……だろうな」 聞く相手を間違えたのだ。蝸牛が気にするのは、日差しの強い日だけなのだから。 ◆
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