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吹雪が止んだ。
数時間後、アレンは落ちた谷底をよじ登っていた。
獣人族のビビット族は、落ちたくらいじゃケガもしない。
ヘタレもしない、その心。
足場のないような垂直の崖に、雪に滑りそうに
なりながら、それでもスルスルと登る。
ズルッ・・とっかかりの積雪ごと、もろに落ちる。
くるんと宙返りで、谷間の岩壁に突き出た木の枝を摑む。
片腕1本にかかる体重。
ぶら下ったまま、ぴょんと少し離れた岩場に着地する。
両足が雪を摑む感覚に、ワンテンポおいて、ふと顔を上げた。
頬を撫でる優しい風。
なぜなら、風に呼ばれた気がしたからだ。
「アレン・・何をする気だ?」
風がささやく。
風が絡まり、青いベールの中から現れたのは
ゼオルグによく似た面影。
ひょろりとしたやせぎすの黒髪の青年が、悲しそうに
アレンを見る。
「何だ、エンジェルか?どうしてそんな悲しい顔をするの」
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