カサカス

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カサカス

雨が降り続く梅雨の時期。 毎日ビニール傘をさして、通学路を歩く。 そんなある日。 傘もささず、雨が降ってるのを楽しそうに走り回る女の子がいた。 年は同じくらいだけど、外国人か? 短い髪に金色で、目は青い宝石みたい。 着物?みたいな服を着てるけど、動きづらくないのかな。 なんとなく見ていると、女の子がこちらに気づいた。 「オマエ、ワタシヲミテイルノカ?」 見た目とは全く異なる口調に戸惑いつつも答えた。 「う、うん。」 その子は神妙な顔で、 「ワタシヲココデミタコト、ダレニモイウナ。イイナ?」 そう言って立ち去ろうとする。 「待って!」 その子はうんざりした顔で、 「ナンダ?」 僕は手に持っているビニール傘を差し出した。 「ナンノマネダ?」 「もう既に濡れてるけど、これ以上濡れなくて済むでしょ?風邪ひくよ?」 「アメニヌレタテイドデヤマイニワナラン。」 「いいから、はい。」 俺は強引にその子に傘を持たせた。 「ワタシニワタシタラオマエガヌレルゾ。」 「俺の家、すぐそこだから別にいい。じゃあな。」 俺はその子をその場に残し、家へ向かって走った。 その翌日の帰り道。 昨日と同じ場所にあの子はいた。 俺が貸した傘をさして。 「キタナ。ホラ、カエスゾ。」 と言って傘を差し出した。 「それやるよ。」 「イヤ、イランノダガ。」 「やるったらやる。傘は腐るほど家にある。」 「フム…。」 差し出した手を引っ込めた。 「デハ、ツカワセテモラウ。デナイト、オマエガウルサソウダ。」 呆れたように笑った。 「あぁ、そういうことだ。」 俺も笑った。 それからというもの、俺はよくあいつと話すようになった。最初は、あまりよく思われていなかったけど、最近ではあいつの方から話しかけて来るようになった。まぁ、話って言っても俺についての話ばかり。 あいつの身の上話的なのは何も話してくれない。 でも、あいつにはあいつなりの事情があるのかもしれないし、俺は何も言わなかった。 あともう1つ疑問に思っていることがある。 なぜ、雨の日にしか会わないのか。 梅雨の時期とはいえ、雨が降らない日もあったりする。 その日の帰り道を通ってもあいつはいない。 それについては、思いきって聞いてみた。 でも、何も言わずただ微笑むだけだった。 そして、梅雨の時期がそろそろ終わりを告げる頃。 俺は真実を知ってしまった。 俺は、今日もあいつに会うために帰り支度を整えていた。 早く帰ろうとすると、同じクラスの修也に肩を叩かれた。 「秋人、今日一緒に帰ろうぜ。」 「悪い、今日人と会う予定なんだ。」 「へぇー?誰と?」 「それは…。」 確か、誰にも言うなって言ってたよな。 「なんだ?彼女か?紹介しろよー。」 「そんなんじゃねえから。」 そんなめんどくさい絡みを無視して学校を出た。 「で、なんで付いて来てんだよ。」 「そりゃー気になるからに決まってんだろ?」 困った。あいつに怒られるだろうなぁ。いや、怒られるだけで済むならいいけど。 そんな不安を抱えながらも歩き、そしてあいつの姿が見えた。 「ほら、あれだよ。目先にいる。」 「ん?どれだ?」 何言ってんだこいつ。 「いや、もう目の前にいるだろ?」 「は?誰もいないけど?」 「え…?」 そんなはずない。いるじゃないか。 こんなに目立つんだぞ?金髪で着物だ。 分からないはずがないじゃないか。 「なんだよー、そんなに会わせたくないのか?」 「あ、いや…。」 思わず、何も言えなかった。 「まぁ、また今度にってことにしといてやるよ。じゃあな。」 「あ、あぁ。」 俺は修也の背中を見送った後、あいつの方を向いた。 「どういうことだ…?」 「マッタク。」 そいつは、まるで悪戯をした子供のような顔をして言った。 「ベツニ、カクスツモリワナカッタ。ダガ、ツタエルベキデモナイトオモッタガネ。」 「お前は、一体…?」 「ワタシワ、アヤカシモノ。『ヨウカイ』トヨバレルモノダ。」 「妖怪…?」 なんとなく、普通の人ではないと思ってはいた。 自分の素性を言わないのは妖怪だと悟られないためだったのか。 「ソウ。アノヒ、オマエニアッタトキ、ワタシワドウヨウシタ。ナゼ、ニンゲンガワタシノ、スガタヲミレルノカト。ニンゲンニワ、ヨウカイワミエナイ。」 「俺には、妖怪を見る力があるのか?」 「ソレワチガウ。オマエワ、アメノヒイガイ、ワタシヲニンシキデキテイナカッタ。」 「お前は雨の日以外もここにいたのか。」 「マァ、オマエトハナスノワオモシロイカラナ。」 「そりゃどうも。」 「ダガ、モウオマエトアウコトワナイ。」 「なんでだ!?」 「オマエニシラレテシマッタイジョウ、ココニトドマルワケニワイカナイ。」 「別に俺はこの事をどれにいも言うつもりはn」 「ソウイウコトデワナイ。」 「!」 「ヨウカイトニンゲンワマジワッテワイケナイノサ。ソレガヨノコトワリ。」 「……」 「サラバダ、ニンゲン。カサ、ダイジニスル。」 「お、おい!待てよ!まだお前の名前聞いてない!」 そいつは笑顔で教えてくれた。 「ワタシノナハ、『アマナ』。」 「俺は秋人!覚えておけ!」 「フフ、サラバダ。アキト。」 そう言って、アマナは消えた。 こうして、1本の傘が招いた俺の長くも短い梅雨は明けた。 あのことをきっかけに、俺は梅雨の時期になると傘をさして、あの場所を見に行ってしまう。 アマナはもういないと分かっていても、あいつと過ごした思い出を忘れないために、今日もまたあの場所に足を運んでしまう。2本の傘を持って。
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