8人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
真っ黒い表紙に“ホラー”のタグ。
『午前3時にこの小説を読まないでください』というタイトルのその小説は、華やかな表紙が並ぶ中では少し浮いてしまっているように見えた。
あらすじ欄にもタイトルと同じく「午前3時にこの小説を読まないでください」という文章が書かれているだけで、それ以外は特に何も書かれていない。
ははぁ、これはいわゆる“読んだら呪われる”タイプの怖い話だな。
この手のディテールは、ネット小説で使い古されたおなじみのパターンでありながら、今なお怪談を盛り上げるためには重宝される要素だ。この小説の作者もそれを狙ったに違いない。
しかしながら、午前3時に読むと呪われる話とは、随分と半端な時間設定に思える。
逢魔が時には半日以上早いし、丑三つ時には少し遅い。いや、丑の刻という意味であれば、3時もギリギリセーフと見るべきか。
そもそも、どうすれば午前3時にこの小説を読んでいると判定されるのかが曖昧だ。午前3時ピッタリにこの小説をクリックして読み始めれば良いのか、それとも、読んでいる間に午前3時になれば良いのか……?
そんな詮無いことを一瞬考えてしまったが、まあホラー小説なんて半分ファンタジーみたいなものだし、細かいことは考えずに雰囲気を楽しむのが正解だろう。せっかくだから、作者の演出に乗るのも面白いかもしれない。
幸いにも、現在時刻は夜中の2時20分。このサイトを彷徨っていれば、40分なんてすぐ過ぎる。3時までは他の作品を読んでいよう。
私はひとまず一番好きなミステリーにジャンルを絞って、応募作品を読み始めた。
ついつい熱中してしまい、気づけば午前2時58分。私は読み途中だった小説を本棚に追加し、例の小説を開いた。どんな物語なのかという期待半分、まぁよくあるタイプの話だろうという疑念半分を抱きながら、私はさっそく“作品を読む”をタップした。
すると、1ページ目にこんな文言が書かれていた。
『 いま何時ですか?
午前3時→戻る
午前3時ではない→次ページへ 』
「なんか、RPGみたいだな……」
苦笑気味にそう呟くものの、ページ切り替える指は止まっていた。
せっかくなら雰囲気を思いっきり楽しもうと3時まで待っていたくせに、こう改めて訊かれると読むのを躊躇ってしまうのが私という人間である。ホラー好きではあるが、根がビビりなのだ。
そうこうしているうちに、時刻は午前3時の5秒前に迫っている。……4……3……2……。
ええい、これを逃したらまた明日の午前3時まで気になってやきもきするに違いない!こういうのは勢いが大事なんだ!!
私は意を決して、午前3時ちょうどに“次ページへ”をタップした。
最初のコメントを投稿しよう!