何とやかましい日常

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何とやかましい日常

 海を見回すように建てられている白塗りの壁の、この施設は『立木の森ハリネス』と言う老健施設だ。  海から顔を出した清々しい朝日に見つめられ、今日と言う一日が始まる。  僕は事務所の扉を開いた。  途中にしてある書類を撫でるように差し込む光り。  バックを放るように椅子に置いて深呼吸するように伸びをした。 「さて今日もやりますかね……。」 僕は、着替えてエプロンを付け、ぼうしを被り、そして厨房の引き戸の前にたたずんだ。  はあー……っと深くタメ息を着いた。  無理もない、何せこの一瞬こそが僕にとって一日でもっとも嫌な一瞬なのだから。  無理もない……何せこの職場は……常人からしたら……まるで……動物園なのだら。 もう一度、重いタメ息と共に引き戸を開いた……。  僕の目には、カワウソのおばあちゃんが映る。  カワウソのおばあちゃんは、ご飯の入ったお茶碗を持ちチョコチョコと走っている。  そして、行ったり来たり。  何度か往復しやっと入れる所を見つけたようで何とか一安心……でいいのか?  この人は、森川さん。  65歳でパートの一人だった。そしてとにかく仕事が遅い……というか無駄な動きが多い。動きが悪ければ頭も悪い、自分で考えようとしない。  そんな森川さんを横目に、一人俊敏に動く人が男性一名。  彼は、ここにもう三年在籍いる栄養士、カバ栄養士さん。  カバは陸上を100km/hで走ると言うが、本当だった。カワウソのおばあちゃんをすり抜けてドドドドっと盛り付けをこなしていた。 「もう十分間も過ぎてる!森川さん急いで!」  無駄なチョコチョコ動きが加速化される彼女。しかし作業速度はあまり変わらない。  見慣れた朝がやって来た……。もう一度、深くタメ息がでた。  僕は、この施設の管理栄養士、矢田 仁。  ここに入社して早いもので半年が経った。  ようやく盛り付けが終わり、カバ栄養士によってエレベーターに乗せられる台車。  カワウソさんがチョコチョコと片付けをしている時、ガチャリと裏玄関が開いた。 「おはようございます。」と言いながら二人のタヌキさんが出社してきた。  ボソリと「まだ終わってない……。」っと呟くのが聞こえた。  こういう時、この二人はダラダラと仕度をする。手伝おうとしないのだ。  しかも、出てきたと思えば自分等で食べる朝飯の用意を始める始末……。    その時「おはようございます」と共に、この栄養課で唯一正常な木村さんが出社してきた。  この方に来てもらえるとホッとするんだ。  いつも愚痴を聞いてもらっているのはもちろん、仕事も早いし気も回る。  僕から見るとパーフェクトなお姉さんだ。  そして、また扉が開いた……ハピネス栄養課最後の一人がやってきた、しかも調理の方。  この人は、ほかの人とは少し違う。  馴れ合いを好まず、淡々と料理を作る、しかも尋常じゃないほど早い。歳は六十五歳だけど……。  しかし、彼女は鉄の心臓を持ったロボだ!カバ栄養士はガンダムと陰で呼んでいた。  カワウソさん、カバ栄養士、タヌキさん二人、ガンダム、飼育員二人、こうして、ハピネス栄養課に全員がそろった。しかし、今日はカバ栄養士が健康診断でこれから不在になってしまう予定だ……。 騒がしい一日が今始まろうとしていた。
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