深夜3時のティータイム

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そのカップが目の前に差し出されれば、桃の甘い香りが鼻をくすぐり、一口飲むと温かく豊かな甘みが疲れた身体に染み込んだ。 「初めての桃源茶はいかがかな?」 「すごく美味しいです!」 話しかけられてつい返事をしたが、店員とは違う声。 慌てて横を見れば、いつの間にか隣の席に男が座っている。キツネ顔のその男はニコッと笑うと目尻にシワができた。 増えたのは隣だけではない。 気付けばカフェ内は夕方のファミレスの様に賑やかだった。 カウンター席は右端を除いて埋まり、一人だったはずの老人の前には老婆が、女性の前には小学生くらいの男の子がいる。 そして右奥の二つのテーブルには、古風な仮装をした男女四人がグラス片手に馬鹿騒ぎしていた。 「いつから……」 「君が来る前からいたよ。君が見えてなかっただけでね」 キツネ男がコンコン笑う。何処からそんな音が出るのだろうか。 「ケーキです」 「は、はい」 店員が自然にケーキを出してきて、とりあえず受取る。戸惑っている私の方が、異常なのだろうか? 「覚悟しなよ。バイト君のケーキ、不味いから」 「趣味を客に押し付けるからねー」
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