お菓子の国の午後3時

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 ある日の夕方、お向かいを見ると、家がほとんど出来上がっていることに気がつきました。  次の日、マナはビルにたずねました。 「あのおうち、もうすぐ完成しちゃうの?」 「ああ、明日には完成して引き上げるよ」 「そんな……」  マナは、思わず泣いてしまいました。ビルがもう現れないと思うとさみしくてたまりません。  マナは、家族が死んでから、一人でひっそり生きていました。だけど、ビルが話しかけてくれるようになって、マナは、家族がいたときのような楽しさを思い出しつつありました。なのに、また一人になってしまうとおびえていました。 「もう会えなくなってしまうのね」 「マナ……俺も、マナに会えなくなるのは嫌だよ。なあ、俺のクッキーがおいしいって言ってくれたの、嘘じゃないよな」 「嘘じゃないわ。毎日食べていたじゃない」 「じゃあ、結婚して一緒に住まないか。これからも、午後3時になったらマナのパンケーキが食べたいよ」 「ええっ!?」  マナは驚いて涙が止まりました。 「そんな、結婚なんて、私は一日一個パンケーキを作るのがやっとなのよ。もっと丈夫な人を奥さんにしたほうがいいわ」 「一日一個でいいじゃないか。レンガもな、一個じゃたいして役に立たないけど、積み上げれば立派な家になるんだ。俺は毎日一口でもマナのパンケーキを食べられたら、幸せな人生になるんだ。だから、結婚してくれ」 「ビル……」  マナは泣きながら頷きました。
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