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05:旅人と不可解な出来事
フォルス帝国国境から少し先にある平原。
ルーテル平原と呼ばれるその場所は、広大な敷地面積を誇るのが特徴だ。
何百万という人が住むフォルス帝国の面積を軽く上回り、フォルス帝国から他国へと移動するだけで何日もかかる程だ。
馬があればもっと早く移動できるけど、今のとこ見かけないので移動手段は徒歩だと思われる。なので必然的に移動に日数がかかってしまう。
もしかしたら噂の愚王がなんか良からぬ政策作ったせいで馬がこの国から消えた可能性もあるけど、私はただの旅人であってフォルス帝国の国民じゃないのでそこまでは知らない。
どんな経緯であれ移動手段が限られているのは事実。
徒歩で他国に渡ろうとすると、一番近い国でも5日はかかる。
足の速い者なら3日4日で着くかもしれないがそれでもかなり時間がかかることは容易に想像がつく。
そして移動するのはこの広大なルーテル平原。
移動中ずーっとルーテル平原が続くのだ。
目印になりそうなものは道中いくつかあるので迷うことは少ないが、他国へ渡るまでの数日間ずっと大して代わり映えのしない平原を練り歩くのもなかなかの苦行である。
まぁそれは一般の見解で、私個人としてはいつでも寝転がれるからウハウハなんだけどね。
そしてルーテル平原の特徴はもうひとつある。
ホワイトシープという、見た目はちょっと大きめの穏やかな羊に見える魔物があっちこっちに生息しているのだ。
実際穏やかなもんだよ。もしゃもしゃ草食べてまったり日向ぼっこしてるのよく見かけるし。
ただ人間を視界に入れると凶暴化するってだけで。
人間になんの恨み持ってんだこいつらってレベルで突進してくるからな。
今の私の状況はまさにそれだ。
「ヒュォォォォ!!」
前方から突進してきたホワイトシープを難なく往なし、流れるように剣を抜き放ってそいつの胴体に突き刺す。
するとそいつは呻き声を上げることなく倒れ伏し、入れ替わるように次の獲物が現れる。またもやホワイトシープだ。
しかしその獲物は前方からではなく背後から奇襲を仕掛けてきた。
振り向かない私を見て後ろを取ったと思ったのか若干速度が上がりつつある。あれじゃもう止まれない。
残りの距離あと数メートルといったところで振り向き様に剣を凪ぎ払う。
「ヒュイッ!?」
悲鳴のような鳴き声と肉が斬り裂かれた音が聞こえたのとほぼ同時にその巨体の上半分が吹き飛び、綺麗な断面を残したまま絶命した。
このようにちらほら魔物は出現するが、絶え間なく現れるほどの危険地帯でもないためふぅっと一息つく。あー疲れた。
念のために言っておくが、決して魔物を倒したことによる疲労ではない。
こいつのランクはE。初心者の冒険者でも頑張れば討伐できる、いわゆる雑魚だ。
たかだかそんなやつを数匹討伐したくらいで疲労なんてあるわけがない。
じゃあなんで疲れてるのかって言うと、ルーテル平原に来る前まで遡る。
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