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そして冒頭に戻り宴会と化した兵舎の修練場にて。
一応主役である私はというと隅っこでもそもそと食事を堪能していた。出されたもんは遠慮なく貰うぜ。
「エリーさん旅人だよね?この国に移住する気はないの?」
私の隣に座る若手兵士の質問に首を振ってペンを走らせる。
私が喋れないことは予めロイド・フォルスが説明済み。
『世界を見たい』
テキトーにそれっぽい理由をデカい字で書き記したものを見せれば若手兵士は「そっかー残念」と軽く笑った。
全然残念そうに見えない少年のような爽やか笑顔頂戴しました。
よし、これからこいつのことは爽快少年と呼ぼう。
爽快少年がにこやかに話を振って私が筆談で応じる、という他愛ないやりとりをしていると、突如背中にのし掛かる何か。
うっ、重い。
ぐりんっと顔をそちらに向けると、先程酒がどうのと宣(のたま)っていたおっさん兵士が真っ赤に顔を染め上げて酒瓶片手に背後から抱き着いていた。それもへばりつくように。
「エリーちゃぁん聞いてくれよぉ~!こないだ彼女にフラれちまったんだよぉ!せっかく勇気出して告白したってのによぉ!昔っからそうなんだよなぁ~……いっつも俺がフラれる側。なんでなんだよぉ~!しかも皆告白した直後逃げるし!」
べろんべろんに酔っ払って恋愛相談された。
酒癖が悪いからフラれたんじゃね?
まぁ理由はそれだけじゃないと思うけど。
頭皮がつるんつるんで眼帯つけたガタイのいい兵士なんて普通怖がられて逃げられるのがオチだもんな。しかも精悍な顔立ちだし。
文句ならハゲ散らかした自分に言え。
「先輩!エリーさん困ってるでしょ!ほら抱きつかない!」
「ゴラァ!リックぅ!離せやぁ!!」
「いつも言ってるでしょ先輩、他人様に迷惑かけないで下さい!」
背後にへばりつくツルッパゲオッサンの首根っこ引っ掴んで私から引き離した爽快少年。慣れた手付きだな。
もしやオッサンが酒に呑まれる度にこいつが尻拭いしてんのか?
お人好しだな。そんでオッサンは飲酒を控えろ。
ぎゃあぎゃあ言い争っているオッサンと爽快少年を横目に、周りの兵士達を観察する。
酒をかっくらってへべれけになってるやつもちょいちょいいるけど、皆本当に嬉しそうに顔を綻ばせている。時折こちらに感謝と尊敬の混じった眼差しを向けながら。
なんだかなー……
さっきも思ったけど、たかがBランクの魔物倒したくらいでそんな目ぇされてもこっちは嬉しくもなんともないんですけどー。
むしろ戸惑いが大きいわー。
こちとら旅の道中にSランクとかSSランクとかの魔物と遭遇してんのよ?
華麗にバトっちゃってんのよ?
そいつらの方が化け物級なのよ?
なのにBランクごときでそんなテンション上がんの?
意味が分からん。
「本当、この国も堕ちるとこまで堕ちたもんだよ」
頭の中にハテナをいくつも浮かべている私の耳に、諦め混じりに紡がれた言葉がするりと入ってきた。
声の出所を探る間もなく別の声がそれを制する。
「おい!ロイド王子もいらっしゃるんだぞ!」
「いーんだよ。どうせ隠しても心ん中読まれちゃ元も子もないんだから」
それらの声はロイド・フォルスが座っているところから聞こえてきた。
あいつ王子のくせに兵士同様床に座ってやんの。
「構わない。続けてくれ」
「ロイド王子がそう仰るなら……」
王子本人に先を促されては意見を押し通すこともできず、渋々ながらも口を閉じる長髪中年兵士。
すぐ隣にいるウルフヘアーの若作り兵士が再び口を開いた。
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