二つの心

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二つの心

ピッピッピッ…。 ある手術室の光景…。 そこには、二人の愛情を示す…なんとも素敵な物語があった…。 …28年前、この世に生を受けた双子が誕生した…。 オギャア…オギャア…。可愛い双子の赤子はお互い呼応するかのように、元気なハーモニーを奏でいた。 …二人はすくすくと成長していった。 そこまで、裕福な家庭では無かったが、いつも一緒に遊び、時には喧嘩し、頭を互いに撫でて、仲直り…。 何でも半分こ…お互いが相思相愛…仲良しコンビ…何をするときにも一緒!幼少時代はそれなりに幸せの時間を過ごした… 『トウヤとジュンヤ、二人は仲良し!』 二人は姿形がよく似ており、間違えられることは度々あった…。 カッコいい双子とも言われ、幾人もの女の子から告白された。 時々、告白相手間違えてるよ!という場面があったが、気にせずにそのまま押してくる女子たちについて…二人はどっちでもいいのかよ、と話しながら笑っていた。 二人とも恋愛に疎かったのか、自分から告白だけはしなかった…。 モテる奴らの美学なのか、それとも双子の信頼を優先したのか…。それは、分からない。 部活動も、彼らはお互いに相談し、別々のスポーツを選んだ。 双子で目立つのも嫌だったから…。 勉強もスポーツも二人とも同程度ぐらいの能力…可もなく、不可もなく…。 趣味嗜好も似ている二人…。ゲームやテレビ、映画、読書、ファッション、好きな食べ物、嫌いな食べ物…などなど、。 だからこそ、二人は仲良く、ここまでやってきたのであろう。 二人の間に秘密にできることは何もなかった…二人はお互いのダイアリーブックであった。 …そんな時、変化は起きた…。 幼少から高校までは、全く一緒の進路で人生を歩んできたが、外部からの影響の受け方には、どれだけ双子だとしても、差違が生じるのは仕方がないこと…。 兄のトウヤは、医者を目指すために医療系の大学へ… 弟のジュンヤは、学校の先生を目指し、教育部がある大学を…それぞれ受験することになった。 お互いに、人と向き合う…人生を考えさせられるような仕事…目指す到達点は一緒だったかもしれない…。 …二人は家の中では、滅多に話すことがなくなった…。受験勉強に勤しむことで精一杯だったのだろう…。 なにせ、彼らの目指すところは、国立一本! 親孝行…ここに極められり…。 日々黙々と…別々の部屋で…勉学に励む彼らの姿は、なんだろうか…少し寂しそうな背中をしていた…。 受験の数日前…トウヤとジュンヤはお互い久しぶりにまともな会話を交わした…。 「頑張ろうな…お互い…夢のために…。」 トウヤは何かを溜めこみながら、言った。 「あぁ…そうだな!目指す先へ!」 ジュンヤはそれに笑顔で返した。 そして…時は来た…。 合格発表の日…! セオリー通りなら、どちらかが、不合格で…というオチがつきものだが…ここは双子で仲良く満面笑顔の結果を期待! さて、結果は… ジュンヤは見事合格した…。 しかし、世の中は非情なものである…トウヤは不合格となってしまった…。 ジュンヤは何も声が掛けられなかった…。 家族もまた次頑張ろうよ!と励ましたが、反応は薄かった…。 次第に、トウヤは部屋の中に引きこもるようになった…。 …高校卒業の日… 春のひだまりが清々しく、皆…それぞれの道へ…涙を乗り越え、進んでいく…。 トウヤだけはその日を境に、家の中から姿を消した…。 『絶対に探さないで下さい…必ず無事でいることのラインは入れます。また一年勉強して、必ず医学部には入って見せます。…ジュンヤ…絶対に夢を諦めるなよ!ジュンヤ先生!』 そんな、手紙が残されていた…。 ……大学生活が始まる…。ジュンヤは期待に胸を躍らせてはいたが、トウヤのことが心配で堪らなかった…。 自分の部屋にさよならを告げ、トウヤの部屋の前で、ジュンヤは立ち止まった…。 ガチャ…。 トウヤの姿が見えない部屋の中を見渡し、ジュンヤは軽く会釈をし、ドアを閉ようとした…。が、その時…何か異様な違和感を感じ、ジュンヤは部屋を探索した…隅々まで…。申し訳ないとも思ったが、彼は衝動が抑えきれなかった…。 あっ…これは…!? 『在るもの』がそこにはあった…。 ……ジュンヤは楽しい大学生活を過ごしていた。都会での初めての一人暮らしにも徐々に慣れていき、何もかもが新鮮に感じた…。サークル活動掛け持ち、二十歳になってからの初の乾杯ビール!勿論、勉強だってしっかり履修! そして、初めての彼女もできた…。自身の無頓着のため、長くは続かなかったが…。困ったことに、本当の好き?だけは、見つけられないまま…彼は大学を優秀な成績で卒業した…。 はれて…夢は実現した!彼は地元に戻り、小学校の先生になった! 彼はロリコン…?そんなことはない…。 小学児童にそんな恋愛感情はもっていません…。 彼は、笑顔で児童と接し、可愛い喧嘩の仲裁、お悩み相談、休み時間に一緒にドッジボール…などなど、心と会話のできる世話好き先生として、人気者となっていった…。特に女子児童にはモテモテ!イケメンだし! 女性の先生方も保護者のお母様方も尊敬?の眼差し…! …そんな幸せの日々を感じると共に、ふと、ジュンヤは思い出す…。 トウヤは今何をしているのだろうか? 両親には、月に一回ラインが届いてるようだが、どんな生活をしているのかは全く分からないみたいだ…。一方通行のメッセージ…それって、もぉ音信不通みたいなものだよね…。 生きているなら…いいのか…。 経済面も全て自分で賄っているのかなぁ…何か危ない道へと足を踏み外してはないだろうか…。時々、不安で心配になってしまう。 もう一度会えるときが来るのだろうか…トウヤの電話番号は…現在…使われていない…。 ………今年で、28回目の誕生日…。そんな、アイツも今日が誕生日だなんだな…。昔、よく一緒に蝋燭の日を消しあっていたっけ? どっちが、たくさん火を消せるか…。絆の炎も消えてしまったのかな…。 28歳を迎え、周りからは、どうして彼女いないんですかぁ? 勿体ないよー! 私、立候補してもいいですか? みたいな合コンのノリが頻発していった…。 うーん…どうしてなんだろうか…。女性が嫌いというわけでもないんだが…。 ブーブーブー…。 …そんな折…電話の着信バイブ…。 学校の校長先生からの着信であった…。 こんな遅い時間にどうしたのだろうか? ジュンヤはその電話の内容を聞き、少し考えた後…すぐさま、電車を乗り継ぎ、都内へと向かった! …自分のクラスの児童が行方不明…家に帰ってきていない…。犯罪に巻き込まれていないか…心配で仕方がなかった…。 ジュンヤは、その児童とそれなりに会話をよくしていた。自分のことを大好きだよと言ってくれた、大人びた可愛げのある児童であった…ジュンヤ先生のファンクラブ自称会長…。 思い当たる節は…大好きで、心が安らぐ場所だと…言っていた、『羽天葉公園』…。 彼は猛ダッシュで、目的地へ向かった! …はぁはぁ…暗がりでよくは見えなかったが…そこにその児童はいた…。 複数の男たちに取り囲まれながら…。 意外と人気のない公園…。交番も近くにはない…。そして、星の輝きは綺麗に見えはするが、何か得体の知れない奇妙さはある…。 嫌な予感だ…。 「…あっ!先生!」 児童はこちらに気づき、叫んだ。 「先生だとぉ…?ふざけやがって!何しにきたんだよ!」 見た目と中身が少し偏ったような奴らがこちらを睨みつけながら、内股気味に…近寄ってくる…。 「ねぇ、ちょっと…先生は関係ないでしょ!」 児童は、庇おうとするが、奴らはどんどん歩み寄ってくる…。クネクネしながら…。 覚悟をきめたっ…! 南無三…! でも、無事で良かった…。何をしていたかは後で聞こうかな… ゲブシィィィ…。イギィィ…。 エッ…ゴッ…ブッ…ッ…! よく分からない音が頭に響く…。 「ヒーロー気取りかよ!俺らはこの世で一番…先生が大嫌いな種族なんだよ…!理解しようとしない窮屈な社会の俺らは犠牲者だ…。」 だ、だろうな…。 薄れゆく意識の中で…先生…せ、せんせ…せ……い… 声は遠退いていった……。 か、加減を…し、知らんのか…。。 ………とジュンヤ…二人は仲良し…双子ならではの思い出の数々が頭の中をぐるぐると走馬灯メリーゴーランドのようにハイスピードで、駆け回る…。 …お、俺は死んだのだろうか…男子児童は無事に保護されたのかな…なんだか…トウヤがいなくなってから、俺の心は見えない穴が無数に空いてしまっている…ようだ…。 なんだか、俺を呼ぶ声が聞こえる…。 今なら分かる…神は不揃いのピースで人間を総生産してきたのではないかと…。 たまに、形が違っても無理矢理はめ込んできたんだなぁ… ……ズッ…ズキッ…! 窮地のトランス状態から、ジュンヤは意識を取り戻した…! んっ…こ…こは…。 凄く眩しい光が瞳に吸収されていく…。 目をしっかりと見開いた時… そこにいたのは……白衣を着た綺麗な女性であった…。 先生か…なんだか、懐かしい面影を残す…誰だったかなぁ…。 「本当に良かった…。ご両親は…今、会社に戻っていったわ…命には別状はないと…悟ったからね…。一時はどうなるかと思ったけど…。」 彼女の目頭が…少し濡れているように見えた…。俺の為に泣いてくれるなんて、嬉しいなぁ…。 「あ、ありがとうございます!あなたが手術をしてくれたんですか?」 「はい…。」 彼女は薄く答えた…。 「あの、どこかでお会いしたことありませんか?」 「勘違いじゃないかな…また来るわね…」 彼女はそういって、背中を向け、病室を出ていこうとした…。 ズキッ…。 「うっ…」 傷がまだ痛む…。 「ジュ…ジュンヤ……。」 そんな呼び掛けが聞こえた気がした…。 怪我によって…大事な何かを忘れていたが…今それは…集約され、記憶となって甦る…。 「ト…トウヤなんだろ…?」 「……」 ジュンヤの呼び掛けに、彼女は…無言のまま…直立している…。 姿形は変わりども…その面影は…二人で過ごした記憶の匂いは消えることはない…永遠に結ばれた双子の固い絆は…見た目の性別などに…惑わされることは全くないのだから… …ジュンヤは既に確信している…彼女が…トウヤが何と言い返そうと、疑う余地はない…。 ふと…思い出した…。トウヤの部屋に隠されていた…在るもの…。 「俺さぁ…トウヤが家を出ていった後に、見つけちゃったんだよ…トウヤの部屋に隠されていた…あっ…親にはバレてはないから大丈夫だよ…回収しといた…。」 フッ…。 彼女の肩の力が少しほぐれたような気がした…。 …見つけたもの…? それは…BL(同性愛者)の同人誌 である…。 見つけた時は…もちろん困惑したが、ジュンヤは…双子…兄弟…だからこそ、理解しようと努力した…。 その後…色々調べ、大学でも同性愛について…心と身体の認識違い…ジェンダー… 子供時代における他の子とは違うという悩み… 多種多様なLGBTの在り方を授業で学んだ…卒論はそれらをテーマに綴った…。 教育の場面でも絶対に味方になってやろう…。ジュンヤは、強く誓った…。 「そうか…やっぱり、あなたには敵わないわね…。私の大事な秘密が盗まれていたわけか…。」 女性の姿をした…トウヤ…が口を開く…。 「…あの当時は、誰にも言えなかったの…ジュンヤ、あなたにも黙ってるしかなかった…。私は、女性よりも男性の身体に興味をもってしまっていた…。なぜ?という言葉が頭の中を右往左往していたけど、結局、答えはみつからなかったの…。」 「…親にもカミングアウトできず、受験勉強も集中できず…手につかなかった…これは、言い訳かな…ハハッ…。長い間、ごめん…どうしても一人になりたくて…。」 ジュンヤはトウヤの話を聞きながら、考えていた…もし、あの時にちゃんと話をしてくれいたなら…どうだったんだろうか…俺はまともに話を聞いてあげてたのだろうか…無責任な推論は止そう…。 でも、今なら…俺は…トウヤの全てを受け止めることができる…! トウヤは話を続けた…。 「私は家出をして…都会にある、同じ悩みをもつ人々が集まる場所に行ったの…。」 トウヤは涙ぐみながら… 「私は楽しくて…嬉しくて…今までの悩みが嘘のように溶けていったの…こんなにも同じ仲間がいるなんて…。」 「私はそのコミュニティの仲間に夢の話をしたの…。生物学的に決められた二種類の性別…決まりごとを遵守するように勝手に貼られたラベルに困っている人を助けたい…身体的特徴を変えたい人への無償の手助け…」 「みんな…応援してくれた…。資金援助もしてくれた…。だから、私は期待を絶対に裏切らないためにも…必死に勉強して、医大にいって、医者になったの…。」 「ジュンヤ…あなたが…ボロボロの姿で運ばれてきたときは、本当にびっくりしたわ…なんという巡り合わせなんだろうって…。緊急手術で、私が担当になったからには…絶対に助ける…と!」 「もし…今…あなたが私の姿に気づかなかったら…永遠に会わなかった後悔で、私は…」 トウヤは言葉を詰まらせた…。 「トウヤ…性別なんかはどうでもいいんだよ!誰を好きになろうと、関係ない…。とにかく、変わらない事実は俺らは死ぬまで…双子だってことだ!正真正銘、血を分けた…!その契りは何者も阻むことはできない…!」 「…そう…だから、帰ってきてほしい…。親にも素直に打ち明けよう…。許してくれるさ…だって、家族だから…。俺も…あの書籍をきっかけに、たくさん勉強したし、説得するなら…俺は味方だ!!」 ジュンヤは傷口から血が噴き出すといわんばかりに、熱意を表明した…。 「……ありがとう…。」 トウヤは止めどなく涙を流した…。 俺はベッドから立ち上がり、トウヤの元へ…。 強く抱き締めた…今まで会えなかった時間に比例するように…精一杯…。 …「キャ…!」 女性看護師が、ドアから、顔を隠しながら…出現した…。 「あっ…いや…これは…」 いや、確かに…トウヤの見た目は…スラッとして…顔立ちも端正…白衣もよく似合ってるし、世の男子皆の欲する…美貌ルックスをあわせ持っている…。 まぁ…一般的にみれば、白昼堂々の情事…。 「そういえば…ついてるの?」 俺は聞いた…。 「うーん…卑猥だからとったよ…!」 ニコッと顔を見回す二人…。 「2人で銭湯にはいけないなぁ…。」 「俺さぁ…学校の先生になることができて、本当に嬉しいんだけどさ…。この歳になって、女性に対して…なんか…こう…打ち解けられないというか…物足りなさを感じるんだけど…俺もやっぱ、トウヤと同じかも…双子だし…。」 …トウヤは…暫くの沈黙の後、照れ臭そうにしている弟のジュンヤに言った…。 「…いや、それは…ただのブラザーコンプレックス…だと思うよ…。ほら、昔から、何かといつも私に合わせて、後ろを付いてきてたし…。初めての離ればなれで、兄…私の…大きすぎた存在の消失が原因かもね…分からないけど…恋愛下手…とか…。」 「あっ……なるほどね…。」 【完】
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