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気が付いたら時計だらけの部屋にいた。
ここに来る前の記憶も無く、ただ振り子時計が辺り一面に壁に掛けられているのだった。
壁に掛けられている時計は全て三時を指し示していて、振り子は動いているが、秒針も長針も短針も一ミリも動いていなかった。
カタカタと鳴り響く振り子の音に、頭がおかしくなりそうだった。
部屋中を歩き回り、色々な種類の振り子時計を見て回るが何も状況は変わらない。
何となく、不意に、一番手元にあった時計の文字盤のガラスを開くと、三時で止まったままの時計の針を動かした。
すると時計達が一斉にゴーンゴーンと時を知らせるおとを鳴らす。同にか止めようと先程の時計の針を元の三時に戻しても音は鳴り止まない。
慌てて部屋の中を歩き回ると、とある時計の下からゼンマイを見つけた。
先程文字盤を弄った時計のゼンマイ部分に差し込めばピッタリと収まった。そのままゼンマイを巻くとその時計からは音が止まった。
それを見て他の時計のゼンマイも巻いていく。
不思議なことに全ての時計のゼンマイが同じなのには疑問を感じたが、今はそれどころではない、早くこの鳴り止まない時計の音を止めるのが先だ。
一つ一つゼンマイを巻いていくと一つ、また一つと鳴り響く音は消えていった。
全てを止めるのにはかなりの時間がかかったが、具体的にどの位時間が掛かったのかは解らなかった。全ての時計が三時を指したままだからだ。
すると、ガコンと音がした。
一番大きな柱時計の振り子の部分のガラス扉が開いたのだった。
そこへ近づくと、振り子は止まっており、なかに入れそうな位広く、振り子の後ろから隙間が見えた。
中へ入りその隙間へと入っていった。
その向こうに広がっていたのは、見渡す限りの草原が広がっていた。後ろを降り向けば先程までの時計だらけの部屋は無くなり草原が広がっていた。
どうしたら解らなくなり、取り合えず前へと進む。
進んでいくとポツリと街灯の高さにある時計を見つけた。これもまた三時を指していた。
そこを通りすぎて進んでいくと先程と同じ街灯の高さにある時計へとやって来た。
首を傾げながら、また草原を歩く。
けれどまた街灯の高さにある時計へとたどり着いた。
これはここに何かあるのかと考え、時計周辺を見渡してみる。
するとポールの一部に穴が開いていた。
中を観察してみるが何の変哲もない穴だ。指を入れてみるが何も起こらない。
あ、と思い出したかの様に手に持っていたゼンマイを差し込んでみた。
ピッタリと収まりガチリとゼンマイを回せば、時計は逆回転を始めた。
そうしているとポールがガタガタと震え始め、空へと飛び立とうとしていた。
急いでポールにしがみつくと蛇行しながら空を飛んだ。
景色など楽しむ余裕など無く、必死にしがみついているしかなかった。
時計のポールはそのまま真っ直ぐ池に向かって墜落した。
吹くがびしょびしょになってしまったが、これで元の場所へ帰れるかと期待して辺りを見渡すと、大きな枯れ木が一本立っているだけっだった。
ずぶ濡れのままその枯れ木に近寄ると幾つもある木の隙間からキラキラと輝くものが見えた。除き混んでみると、子供達が嬉しそうに走り回っていたり、男性が新聞を読んでいたり、女性が買い物をしている姿だったりが見えた。
それを眺めたあと、先程と同じようにゼンマイを回す穴が無いか枯れ木を観察する。すると先程と同じ様にゼンマイを入れるらしき穴を見つけた、二つ。
どちらかが辺りなのか?両方同じなのか?
首を傾げて考えてみるも、答えは一行に出ず、仕方ないと半ば勘で片方の穴にゼンマイを差し込んだのだった。
ギリギリと回せば、大量の白いけど粉が自分目掛けて吹き出してきた。びしょ濡れの上に粉だらけになるとは思わなかったので気分は最悪だ。
ため息を吐くと、もう一つの穴にゼンマイを入れてギリギリと回した。すると枯れ木の空洞部分が光だした。
ここに入れということなのかと思い、不安があったがこれ以上何が起こっても構わないと、思いきってその中へと入っていった。ゴロゴロと転がり上下左右がわからなくなる。
そして目を覚ました。
自分は美容院に来ていて、つい眠ってしまっていたらしい。その間に髪型は完成しており、終了間近だった。
「あ、起きたんですね、うなされてましたけど何か夢でも見たんですか?」
と店員がそう言ってきたのだが、何か夢を見ていた気がするが、思い出そうにも思い出せそうになかった。
「不思議な夢を見たと思うんですけど思い出せないですね」
店員は最後の仕上げをしながら、
「夢ってそんなものですよね」
そして仕上げが終わると、席を立って支払いを済ませようとした時だった、ポケットからカツーンと音をさせてゼンマイがポケットからこぼれ落ちた。
そしてその店には大きな大きな柱時計が設置されていた。時刻は三時を指していた。
ゼンマイを拾い上げると、何か、決定的な何かを忘れてしまっている事に、とてつもない違和感を感じるのだった。
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