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彼女は椅子の位置はそのままに、自分の体を反転させて、椅子にまたがり、身を乗り出してヒカルに尋ねた。彼女はそういう話を聴くことが好きで、また、話者に気持ちよく喋らせることがうまかった。
「感想教えてくれるって言ってたのにどうして電話してくれなかったのさ」
「えーーと。それが・・・・・・」
ヒカルはバツが悪そうに視線をそらした。
「え? まさか?」
「うん。そのまさかなのです・・・・・・」
「はぁ、あんたのお腹一度病院で見てもらった方がいいんじゃない?」
ヒカルはカバンを下ろして自分の席に座る。
「いや、藍子ちゃん。誤解しないでほしいんだけど、私だってデートしたいよ? でも、でもね? もし嫌われちゃったらとか、服が変じゃないかな? とか思うと急にお腹が・・・・・・」
「で、またドタキャンか。これで何回目?」
「そんな数、怖くてかぞえられません!」
藍子はため息をついて、ヒカルの机に肘を置いて頬杖をついた。餅のような頬が形を変える。
「そんなに緊張しなくていいのに。ヒカルは彼女なんだから」
「いやでも、自分ひとりの力で彼女になれたわけでもないし」
「アドバイスがあったとしても三原くんはヒカルのこと好きになってくれたんだか大丈夫だと思うんだけどなぁ。ヒカルだって三原くんが色眼鏡で人のこと見るような人じゃないって知ってるでしょ? ていうかそういういとことが好きなんでしょ?」
ヒカルは自分の顔が熱くなるのを感じた。そして、小さくうなずいた。
「制服着て学校帰りにデートするのはできるのに、何で?」
「それは・・・・・・」
他愛のない会話が教室の中で生まれては消えていった。その会話を遮るようにホームルームが始まるチャイムが鳴った。同時に担任の教師が教室に入ってくる。
誰が何を言わずとも生徒たちは自分の座席に座った。藍子は「また後で」というと体を百八十度反転させて教壇の方に体の正面を向けた。
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