flavor of life

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ヒカルはチャイムの音に耳を澄ませる。チャイムの音は開演を告げるベルに似ていて、誰しもが役者になる合図だった。教壇の上に登る男は教師役でヒカルを含めた男女32人は生徒役のようであった。ヒカルはこのチャイムの音を聞くと落ち着く。与えられるのは気楽だからだ。 教師は出席簿を眺めながら一人ずつ出席を取る。元気よく返事をする生徒、気だるげに返事をする生徒、不機嫌に返事をする生徒。何はともあれ生徒はそういう役なのだ、返事をしないわけにはいかない。 「遠藤晴」 教師が晴の名前を呼ぶ。しかし、返事はない。晴の名前が呼ばれると教室の中は静まりかえった。 「先生。遠藤さん、まだ来てません」 とヒカルが晴の代わりに返事をした。 「ああ、またラボか。じゃあ、今日も休みだな」 教師はそう言って納得すると、ヒカルに目線で合図を送った。ヒカルはその目線に頷くだけで応えた。それから教師は次の生徒の名前を呼んだ。遠藤晴はこの学校という舞台上で役者でも、裏方でもない特別な存在だった。 今日は一人で晴に会いに行こうとヒカルは決めた。
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