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捧ぐバイオリン
私は意識不明の祖母の病室で、祖母との思い出の曲をバイオリンで奏でる。
私が小さかった頃から優しくて、祖母の家に行くと大好物のエビフライを用意し、私のバイオリンを楽しそうに聴いてくれた。
バイオリンは母が私のためといって習わせたが、私の演奏で祖母の笑顔になってくれるのが嬉しくて、私は懸命にバイオリンを練習した。
その甲斐あって数々のコンクールでは常に優勝し、持ち帰ったトロフィーや賞状を見せると、祖母は私を誉めてくれた。
私が十四歳になった時だった。祖母が病気で倒れ、もう余命も長くないと聞かされた時は本当にショックだった。
祖母は治る望みを捨てず、辛い治療を文句一つこぼさず耐えてきた。それも私のバイオリンを聞きたいという思いからだ。が、祖母の気持ちとは裏腹に、治療の経過は芳しくなかった。
食が細くなり、日に日に痩せていった。
とうとう祖母は意識不明の状態となり、明日にも延命装置を外すと告げられた。このまま延命しても祖母の意識が戻る可能性が低いと言われたためだ。
私の内心は祖母に永遠に会えなくなる悲しみと、やっと祖母が楽になる。という複雑な気分で母から説明を受けた。
その前に、私は祖母にバイオリンを聴かせたいと母に伝えてみた。その方が祖母も喜ぶと。母は快く了承し、祖母の治療をしている医師からも許可をもらった。
―――おばあちゃん、私の演奏聞こえてる? これはおばあちゃんが誉めてくれた曲だよ。
私は心の中で祖母に語りかけつつ、思い出の曲を弾く。この曲は奏でるのに五分かかる。演奏の最後を飾るのに相応しい。
曲を流している時だった。祖母の目から涙が出た。さっきまでの曲とは違い、大きな反応だ。
―――おばあちゃん
私の目からも涙が頬を伝った。意識が無くても、私の演奏が聞こえてるんだ。
涙が止まらなかったが、私は手を動かし続けた。演奏は最後までやりたかった。でないと一生後悔する。
私は曲を弾ききり、バイオリンを下ろした。私は涙を腕で拭った。やりきれて良かったと思ったからだ。
―――おばあちゃん、大好きだよ。
私は泣きながら祖母に伝えた。
祖母との温かな記憶が私の心に駆け巡り、明日にはもう会えなくなる寂しさが余計に強まった。
―――最後まで、私のバイオリン聴いてくれて有難う。
感謝の言葉も忘れなかった。聴いてくれた人に対する感謝も必要だという祖母の教えからだ。
次の日、祖母は私を含む家族が立ち会う中で延命装置を外され、息を引き取った。
祖母が亡くなってからも、私はバイオリンの演奏を続けた。そうすることで、祖母が見守っている気がしたからだ。
私のバイオリンが天国の祖母に届くと信じて、今日も曲を奏でた。
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