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同音異字 ~編集編
電話が鳴る音で目覚めた。暗闇で光るその画面で時間と相手を確認しながら手に取った。
三時か。先生からだ。出ないわけにいかない。
「はい」
「山形くん、こんな時間に悪いが、最後の石動の謎解きにサンジをどうしても入れたいんだ!」
「三時ですか? あの場面に時間が必要でしたか?」
「何言ってるんだ。三時じゃなくてサンジだよ。思いついたら、どうしても直したくなった」
僕、山形卓は出版社で短編小説集の編集を仕事にしている。そんなに大きくない会社なこともあって、担当作家が多い。夜中の三時に電話をかけてきて僕を困らせるのは中堅作家の緑川しずく先生で、今夜が初めてでもない。彼の小説を思い出しながら言った。
「先生、探偵役の石動の台詞を三文字増やすんですね? うまくオチていましたから直さない方がいいと思いますけど。でも先生がそう言うのなら、どこの部分になんと?」
「そうじゃなくて、このサンジを入れたいんだ」
このサンジ……三時、三字、三次……原稿が落ちれば大惨事となるし、先生のいうサンジを入れたことによって賛辞を受けることになるかも……?
「先生、わかりました。今からお宅へ馳せ参じますので、是非サンジについて……」
〈了〉
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