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1. JKのスクール水着
スタート台から、勢いよく飛び込んだ。
水中をドルフィンキックで進んで行く。
一週間ほど前から、頭がガンガンしていた。吐き気もあった。多分、何か嫌なことを忘れようとしている。
思い出そうとすると、頭が割れそうに痛い。
多分それは、死んでしまいたい程の記憶。いや、もう死んでいるのかもしれない。
生きていても死んでいる目をしている人がいるが、そういう意味ではなくて、俺は……。
――ダメだ。思い出せない。
諦めにも似た感覚で、意識をぼんやりさせた。だんだんと重力から解放され、体がふわっと軽くなる。
水面に体が浮かび上がる。
息継ぎのタイミングで、突き抜けるような青空と、うんと高いところに、入道雲がもくもくと広がっているのが見えた。その清々しさに、気持ちが落ち着いていくのが、わかった。
どんな悩みでも、ここでこうしていると、ちっぽけに思えてくるから不思議だった――。
あっ…………。
……そう言えば…………。
…………頭痛の原因ってなんだ……。
ここは二十五メートルプールで、このプールにいるのは俺一人。と言いたいところだが、残念なことにもう一人泳いでいる。
しかし、このレーンで泳いでいるのは、俺だけなので、もう一人のことを気にする必要は全くない。
今は、放課後の水泳授業の補習の時間だった。
通っている田辺第一高校は、水泳の授業を三回休むとごとに、一回の補習を放課後に受けないといけないことになっている。
クラスメイトと、わいわいと水泳の授業を受けるのが嫌な俺にとっては、補習授業の方が極楽ってわけだ。
広いプールを一人で、独占する。それは俺の優越感でもあるのだが……、水泳が苦手という理由で授業を休む女子生徒が、隣のレーンで二十五メートルを泳ぎきれずに、立ち止まりながら、のそのそ、のそのそと泳いでいる。
――ほらっ!
立ち止まった。
はぁー、なんか泳ぎに集中できなくなってきた。
彼女の名前は茅ヶ崎雪菜(ちがさきゆきな)。勉強も音楽も走るのも、球技も得意なのに、まぁ泳ぐのだけは、全然ダメ。
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