涙に傘を差したなら

1/1
前へ
/1ページ
次へ

涙に傘を差したなら

雨上がりの昼下がり。 公園では、近所の小学生が動植物の観察をしていた。 ふと、一人アリの行列を見つめる少年に目がいった。 少年が、アリの行列に傘を差す。 不思議とそちらに足が向かった。 「何してるの?」 と尋ねてみると、 「水に濡れたら可哀想でしょ?」 最初、少年は雨のことを言っているのだと思った。 だが、空には雲が一つ浮かんでいるだけ。 天気雨というわけでもない。 雨は、とっくに上がっているのだ。 また、ふと少年の顔を覗く。 私は気付いた。 「泣いてるの?」 少年は小さく頷いた。 「アリさんは、お水が苦手なんだ。」 少年は涙を拭うと、ラムネが弾けたような笑顔を見せた。 「これで、アリさんも笑顔だね。」 少年は涙を含んだ声でそう言うと、タタタッと走り出した。 袖口から見えた腕には、煙草を押し付けられたような跡があった。 「っ……。」 私は置いていかれた傘を拾って、少年を追い掛けた。 「誰かが笑えば、また他の誰かも笑うだろう。誰かが泣けば、他の誰かは笑うだろう。」 ふと、そんな詩を思い付いた。 この傘は、SOSのメッセージなのかもしれない。 涙に傘を差したなら。 涙に傘を差したなら。 きっと、傘の上は、ずっと雨だ。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加