涙に傘を差したなら

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涙に傘を差したなら

雨上がりの昼下がり。 公園では、近所の小学生が動植物の観察をしていた。 ふと、一人アリの行列を見つめる少年に目がいった。 少年が、アリの行列に傘を差す。 不思議とそちらに足が向かった。 「何してるの?」 と尋ねてみると、 「水に濡れたら可哀想でしょ?」 最初、少年は雨のことを言っているのだと思った。 だが、空には雲が一つ浮かんでいるだけ。 天気雨というわけでもない。 雨は、とっくに上がっているのだ。 また、ふと少年の顔を覗く。 私は気付いた。 「泣いてるの?」 少年は小さく頷いた。 「アリさんは、お水が苦手なんだ。」 少年は涙を拭うと、ラムネが弾けたような笑顔を見せた。 「これで、アリさんも笑顔だね。」 少年は涙を含んだ声でそう言うと、タタタッと走り出した。 袖口から見えた腕には、煙草を押し付けられたような跡があった。 「っ……。」 私は置いていかれた傘を拾って、少年を追い掛けた。 「誰かが笑えば、また他の誰かも笑うだろう。誰かが泣けば、他の誰かは笑うだろう。」 ふと、そんな詩を思い付いた。 この傘は、SOSのメッセージなのかもしれない。 涙に傘を差したなら。 涙に傘を差したなら。 きっと、傘の上は、ずっと雨だ。
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