プロローグ〜勇者登場〜

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プロローグ〜勇者登場〜

 ーー遙か昔、この世界は『人間』によって支配されていた。ある時、異界から魔物や魔人など『魔族』と呼ばれるものが出現し、『人間』を脅かす存在となった。それから、『人間』と『魔族』は長きに渡り、争いを繰り広げてきた。  いつしか、『魔族』側を統率する『魔王』、それを倒すために立ち上がる『人間』側の『勇者』が生まれ、『魔王』と『勇者』の戦いに移り変わった。 『魔王』と『勇者』の戦いにて、『魔王』が『勇者』の命を奪うと、次の『勇者』が生まれ、ある程度力をつけた後、魔王討伐に向かう。『魔王』が討伐できるまでの間、『魔王』に敵うものはおらず、世界は混沌に包まれる。『人間』は身を守るために『魔族』に抗うが、いくつもの村が魔物や魔人に滅ぼされている。  逆に、『勇者』が『魔王』に打ち勝つと、次の『魔王』が誕生するまでは、世界はしばしの安寧を得る。  世界は、『勇者』と『魔王』に左右されている。  それが、この世界『リュワール』の現在の摂理。  ーーそれから数百年の後。  リュワールには、一つの国しか存在していないが、島がいくつも点在しており、北西に位置する島にはゾンネ村という村があった。その村からは、歴代の勇者が何人も生まれていた。  そしてまた今回も魔王討伐のための新たな勇者が誕生した!  ゾンネ村で生まれたリヒトは、遠い昔の勇者の血を継いでいた。彼は、父親のように村を魔物から守る戦士となるべく、物心着いた頃より剣の訓練を行っていた。  この世界の成人は14歳。昔からの伝統行事として、全ての人は13歳の時に神託を受ける事となっている。  この世界に最初に魔族が侵略してきた時、魔物は人間より力を持っていたため、人々は知恵を絞らなければいけなかった。未知である魔物を倒すのは至難の業で、最初の人間対魔物の戦いは、魔物側の勝利で終わり、各地域に『魔族』の居住となるタワーが、魔人によって作られ、『ダンジョン』と呼ばれている。  人間達は、以降、魔族の研究や対策も進めてきた。そのおかげで、魔法が生み出され、剣士や武闘家、魔法使いや僧侶など、戦闘職と呼ばれる職種が増え、魔族との攻防を繰り返してきた。 『勇者』が存在する以前に、神官の神託によって『戦闘職』に向いているのか、人間の暮らしを支える『民業職』(みんぎょうしょく)に向いているかを判断してもらい、戦闘職と言われた者達は王城に召集され、最高位の神官によって能力値が判断され、『魔王討伐部隊』『魔人討伐部隊』『魔物討伐部隊』『防衛隊』に割り振られていた。  いつからか魔族を統べる『魔王』を倒す『勇者』が生まれ、神官の神託によって『勇者』も探し出せる様になり、そこから更に、文明も魔法もスキルも発展した現在では、神託で判断された以外の職種にも就ける様になっていた。  今では、神託は『勇者』および『魔王討伐部隊』に適した人間を探すことを主な目的とし、それ以外の人々の適正の職業を判断するために使われている。  13歳で自分の目指す道を定め、約1年の準備期間を経て、14歳で旅立つ。それが当たり前となっている。  リヒトも13歳の誕生日を迎え、父と母と共に隣町の教会に出向く。そこには、神託を受ける人達が数人並んでいた。神託の儀式が設けられるのは、月に一度で、13歳の誕生日を迎えた翌月に、定められた教会に訪れなければならない。 「リヒト、緊張してるのか?」 「ううん、緊張はしてないよ。この神託を受けたら、戦闘職者として少しは活動出来るようになるし、やっと父さん達と一緒に村を守ることが出来るようになるんだよ? だから、楽しみなんだ」 「そうね、リヒトは月に一度の討伐隊に参加したいって、いつも言ってるものね。昔から剣の腕は良いって言われていたし、父さんと同じ剣士かしらねぇ」 「あぁ、リヒトは剣士向きだろうな。万が一、剣士以外に適職があったとしても、お前は十分、剣士としてやっていくこともできるだろう」 「へへっ、ありがとう、父さん!」 「あ、ほら、リヒトは次よ」  3人でリヒトの希望職について話していると、あっという間にリヒトの順番が次に迫っていた。ちょうどその時、扉が開いて、リヒトの前に並んでいた神託を受けた女の子がとても嬉しそうに興奮しながら両親と出てくる。  その様子を横目で見ながら深呼吸をして、扉をくぐる。リヒトの父と母はその一歩後ろをついて行く。  真っ白な部屋に入ると、中央に神官が1人立っていた。誘導され、それぞれ椅子に座ると、神官が呪文を唱え始め、3人は一言も発さずに神官を見つめた。  やがて詠唱が終わると、驚きの声を発した。 「なんとっ!!」  その神官の驚きの声にビックリしたリヒトは、反射的に「え?」と声を出していた。 「おぉ、こんな事が!! まさか、自分が立ち会えるとは……」  神官は独り言を続けている。しかし、状況が理解できないリヒトは、眉を顰めながら、すぐさま問いかける。 「神官様! 神託で何が出たのでしょうか?」  リヒトの声で我に帰った神官は、リヒトに満面の笑みを向けて言った。 「おめでとうございます!! あなたは『勇者』です!」 「「は?」」 「まぁ!」  3人が同時に驚きの声をあげた。 「あなたは今代の勇者です。これから14歳の誕生日まで魔王討伐に向けて準備頂き、その後は王城に向かってください。そこから先は他の討伐隊と一緒に王様の指示に従って旅立つことになります。ぜひ魔王を討伐してくださいね」  神官は興奮気味に述べると、リヒトの手に両手を添えて、力強く握手した。されるがままのリヒトが、未だ呆然としながらも少し現実に戻ってくる。 「……僕が、勇者……?」  神託を受けた帰り道は、3人とも一言も喋らなかった。家に着いて、ダイニングテーブルに座ってから、漸く目線を合わせると、最初にリヒトの父が口を開いた。 「凄いじゃないか、リヒト! 勇者に選ばれるなんて。お前は、この村を守りたいと言っていたが、この村を守るために、お前にしか出来ない事がある! 魔王討伐は勇者のみが出来ることだ。そして、魔王を討伐すれば、村も平和になる」 「……」 「ねぇ、リヒト。あなたは、古の勇者の血も受け継いでいるのよ。目標のために、ずっと努力してきたリヒトなら、きっと魔王も討伐出来ると思うわ」  信じられない内容の神託に、夢かもしれないと疑っていたリヒトは、両親の言葉により、やっとこれが現実である事を認識する。 「……父さん、母さん、ありがとう。僕が勇者に選ばれるなんて、未だに信じられない気持ちでいっぱいだけど、勇者に選ばれたからには、魔王討伐に全力を捧げるよ! 僕は、魔王を倒して皆が平和に暮らせる世界を取り戻すよ! ……出来るなら、しばしの安寧じゃなくて、ずっと平和に暮らせる世界にしたいけど……」  それは、誰もが願う事だ。しかし、そう簡単に何とか出来る事ではないのも誰もが理解している。息子が勇者に選ばれた事で、信じられないことも起こる事もあると考えた父は、僅かな希望を持って口にする。 「……この世界も意外と広いから、もしかしたら、何か方法が見つかるかもしれないぞ」 「そうだね、旅に出たら、その方法がないかも模索してみるよ。でも、とりあえず、明日からはレベル上げに専念しないと、かな」 「リヒト、母さんも父さんも出立するまでは、出来る限り協力しますからね! あぁ、そうそう、リヒトの今後も決まった事ですし、今日はお祝いでご馳走ね! 急いで準備しなきゃ」 「よし、俺も手伝おう」  そう言って、2人は慌ただしいながらも嬉しそうに準備を始める。リヒトは、準備期間での大まかな目標や計画を考える。  ーーそうして、その日から、リヒトは魔王討伐に向けて動き出した。
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