雨雨坊主

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 お綺麗ですよお嫁さま。と、年を食ったメイク係の女が言う。ほんとだ、すごいですねえ。わたしはわざとぶっきらぼうに答える。だけど少し、紅が濃いみたいな気がするけど。  マアア、これでも薄いくらいですのよ、お嫁さま。メイク係の女はそう言って、義母が待つ隣のブースへと、足早に消えてしまう。わたしはそっと唇を舐めて、なるべく薄めようとする。気持ちの悪い味が、舌の上に広がる。お嫁さま、だって。へんなの。  ほんとに、今日はカラッと晴れて、良かったわあ。と、隣のブースから、義母になる人の、嬉しそうな声が聞こえてくる。ええ、ほんとうに。きっとお二人の日頃の行いが良いせいですわね。メイク女が早口で答える。花飾りだらけのかつらが、ずしりと首へのしかかってくるような気がする。  わたしは盗み見するように、ちらっと鏡の中の自分をのぞく。もう若くない女がひとり、大げさな白無垢へ身を包んで、呆然と座っている。昨日まで子どもだったのが、時間をすっ飛ばして、一気に大人になってしまって、すっかり途方に暮れているような、そんな間抜けな顔をして。
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