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主人になる男は、呆然とわたしを見つめていた。マアアお嫁さま!想いが溢れてしまったんですのね、と言って、メイク係の女が大きな化粧道具を自慢げに取り出した。
涙は洪水のようにとめどなく流れた。女はティッシュでせっせとわたしの涙をぬぐいながら言った。わかってくださいますわねダンナ様、女にはあるんですのよ、幸せすぎて泣いてしまう時が…
わたしはぐしゃぐしゃな顔のまま、後ろを振り返った。父が、母が、皆が、一歩引いたところから、わたしを見ていた。
わたしは違う、と叫びたくなった。わたしはまだ、小学校四年のあの頃のまま、何も変わっていないのに。ハムスターが死んで、立ち直れないで、拗ねているような子供なの。だから、そんな風に見ないで。一人前の女を見るような目で、見ないで。どうか、お願い。
その時、ふと、遠く鳥居の下で、見覚えのある男が傘を一本持って、じっと立っているのが見えた。
彼はあの時と一切変わらない様子であった。歳も食っていないように見えた。
男が傘をパッと広げた。ピンク色の、子供用の傘だった。
わたしはハッとした。それは見覚えのある傘だった。
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